論文


特集第41回大阪全国研究集会・分科会テキスト(2005.7.8合併号)
会計参与制度を検証する 実録「今津事件」
滞納処分 NPO法人の税務・会計
所得税法第56条を斬る 民法と税法の接点
10年後の税理士業務 岐路に立つ社会福祉法人経営


特集第41回大阪全国研究集会・分科会テキスト
10年後の税理士業務
千葉税経新人会


はじめに
私たち税理士業界は、規制緩和の流れとIT社会の進歩によって、業務と経営の変革が求められている。確かに、長い間保護されてきた資格制度の下では外圧からの抵抗力の欠如は否めない。

本年度、単位税理士会及び各支部は日本税理士連合会の「税務援助関連事業の抜本的な改革を図り、時代の要請に応え得る税務支援体制を整備する」(税理士界第1205号)に伴い、総会において会則の変更整備を図った。

税務支援は税理士の社会的貢献と位置づけられているが、確実に増加する所得税申告者と新規消費税課税事業者の申告事務を税理士会自身が無償独占を死守するために、行政の下請機関と化することを選択したのではないかという疑問と不信を抱かずにはいられない。

一方では、申告者の増大は関与先拡大のチャンスと捉え、積極的なネット広告に打ってでる税理士の存在は今や当然の行動とも言える。
さて、我々の置かれている環境は、

パソコン普及による高度情報化社会により、関与先との対話関係(アナログ)から情報伝達関係(デジタル)へと変化

長引く経済不況による関与先の減少、報酬の値下げ、安価な会計ソフトの普及などによる事務所経営の圧迫
毎年改正される複雑、高度化する税制、会社法の改正(会計参与)、会計基準の変更などの幅広い知識
電子申告、税務支援など業界の環境変化への対応

など、複雑多岐に亘る問題に対して、正確な情報提供と適切な判断能力がますます税理士に求められている。

このような激動する税理士業界において、一人一人が将来の税理士像を描き見据え、生業として今何をなすべきか、今後税理士としてどのような対応、対策をなすべきか、更には、税理士はこうあるべきであるなどの判断の一助になればと思いこのテーマを選定した。

I規制緩和と税理士

平成9年11月15日発行の税理士界に掲載された東京税理士会早川昇氏の「税理士業務の規制緩和とは何か」をはじめ、規制緩和問題の紙面に多くの税理士が衝撃を受けたことであろう。

規制緩和は、消費者の選択幅の拡大、事業機会の拡大、サービスの効率化を図り競争原理を引き起こすことなどを目的としているが、税理士に付与されている業務独占を無資格者に与えることになれば、税務行政は混乱を招き、効率的な執行と法秩序の崩壊の危機に直面することになる。或いは税理士又は強制加入である税理士会に対する監督権、懲戒権などの権限を失効することになるなど、税務の分野には規制緩和は及ばないとする楽観論があった。他方、他士業資格者が税理士業界に参入してくる不安、とりわけ税理士会は国際的会計法人、外資系会計事務所の進出が脅威の関心事でもあった。

そして、国際化、規制緩和の流れの中で報酬限度額の撤廃、広告の自由化、税理士法人の創設、補佐人制度の創設などの改正を行い、平成14年4月現行税理士法が施行された。
1. 残された課題
(1)業務独占
規制改革において積み残された課題の一つに、税理士に付与されている業務独占の問題がある。税理士法第2条1項「税理士は、他人の求めに応じ、租税に関し」は、有償無償を問わず税理士に業務の独占が与えられている。業務独占の規制緩和は、市場原理に基づく自由競争、廉価で優良なサービスの提供において、無資格者などにとって大きなビジネスチャンスとなるが、資格間相互参入、無資格者の増大は、税務行政と納税者に対して無用な混乱を招く虞がある。また、一定の専門的知識とその資質が試験制度によって担保されていることによって、納税者は専門家に対する信頼と安心感が持てるのである。

このような考えは、税理士の既得権益の保護と業界のエゴに捉えられるであろう。
しかし、税理士の使命(法第1条)は、申告納税制度の理念に沿って、納税者の信頼に応え、適正な納税義務の実現を図るとともに、納税者の権利を擁護する立場を担っている。

また、税理士は税務の専門家として、民法上、高度な注意義務を負い、納税者に与えた損害に対する賠償責任も課せられ、税理士法上の懲戒処分などの規定によって一定の倫理紀律が図られている。

単に、規制緩和で言うところの自己責任と市場原理に基づいて、誰もが自由に税理士業務(の全部又は一部)を行なうことが可能となれば、無責任な申告、指導と損害賠償から逃避する者、成りすましが横行する。このような反社会的な業務活動、行為によって納税者が被る損害を専門家として見過ごすことはできないところに税理士の使命の所以がある。
(2)強制加入制度
もう一つの課題として団体への強制加入が指摘されている。強制加入団体である税理士会は、税理士の無償独占と密接に関係している。

税理士制度の社会性、公共性から、税理士資格者と無資格者などの区別がなければ、納税者は選択する判断基準を失うことになり、専門家の社会的公共性、納税者の権利の擁護も薄れる。また、税理士業務が有償による業務に限定されたとしても、行政は監督権、懲戒権などの権限維持のため、団体への強制加入制度は撤廃しないであろう。

他方、税理士業務が資格者以外の者に解放された場合には、団体の存在と加入の意義は薄れ、任意加入団体と変貌するであろう。当然、民主的な組織、政治的権力をもった組織、地域型組織など様々な団体が一定の自治権を得て誕生することになる。また、高い倫理観と職業専門家としての使命を保持できる者は、何れの団体にも属さない選択肢もあろう。

しかし、税理士会の土壌(様々な形での登録会員を擁している団体)では、各種団体間の力関係、行政圧力、思想信条への差別など同業者間の歪みを生むことになり、また、行政による管理、監督などの権力が及びにくい税理士、無資格者、反体制組織などに対する取締強化が緊急課題となってくる。

果たして様々な団体が誕生することが、税理士の専門家(集団)としての使命と社会的公共性を堅持できるか疑問に感じる。

自治能力を持たない強制加入団体の税理士会と、日税連の構成員が個人会員ではなく単位税理士会に与えられているところに問題がある。
2. 税務支援と社会貢献
日税連、単位税理士会及び各支部は、経済的な理由から税理士等に業務を委嘱困難な者及び本会が指導を必要と認める納税者について、税理士会及び会員の積極的な税務支援活動を宣言した。

背景には、各種所得控除の廃止、将来的な年末調整制度の廃止、新規消費税課税事業者など申告者の増大への対応、行政主導による電子申告の推進などの受け皿として、臨税ではなく無償独占が与えられている税理士会に期待したいとする国税庁長官の発言にある。裏を返すと明確に無償独占を護りたいならばおやり下さい、ということであろう。

しかし、税理士会が行なうとしている税務支援は、単に会則上の社会的貢献の位置づけしかなく、今後、支援方法など検討、議論されていくのであろうが、納税者への過剰な支援体制は、良好な関係にある関与先までも無償支援へと導くのではないかという不信感が生まれる。税務支援は税理士業務(無償独占)のあり方が問われる重要な問題である。

II税理士と会計業務〜今までの10年とこれからの10年

1. はじめに
「税理士は会計の専門家か」という議論は古くから存在する。たしかに税理士法の定義に照らせば会計業務は独占権を有する税務業務と異なる付随的な業務とも言えよう。

とはいえ実態として戦後半世紀にわたり企業会計の分野を中心に国内の中小企業や諸団体の会計業務をサポートしてきたのは紛れもなく私たち税理士であり、企業会計への支援業務は今日までの税理士事務所の経済的基盤を支える重要な要素であったことは疑いようのない事実である。

そして今、その会計実務の分野でコンピュータと会計ソフトウェアを利用せずに業務をおこなうことは不可能であり、企業の日常的な会計業務とコンピータ利用について今後の動向を研究することは税理士にとってたいへん重要な意味をもつこととなる。

総務省が2001年に行った「事業所・企業統計調査」によれば、全国の事業所数は約640万。これらの事業所向けに業務ソフト各社は様々なアプローチをおこなっているが、このうち家電量販店など店頭での販売実績で他社を圧倒しているのが『弥生会計』である。
本章では『弥生会計』を題材に、

・90年代以降の中小零細企業向けの会計ソフト市場の変遷
・中堅企業向けの業務ソフト市場の動向
・会計ソフト先進国・アメリカでの現状

にふれながら、我が国での近い将来の会計ソフトと企業会計業務の変貌、そして私たち「会計の専門家」としての業務への影響を予想していきたい。
以下、発表内容は項目の列挙にとどめる。
2. 90年代以降の中小零細企業向けの会計ソフト市場の変遷
(1) なぜ弥生会計はユーザの支持を得たか
(2) オフコン各社は何を読み誤ったか
(3) PAPの導入による会計事務所販売チャネル化の成否
(4) 打倒"弥生会計"他社ベンダーの動向〜ミロクユニソフト、PCAを例に
(5) Microsoftの戦略に翻弄されるソフト各社〜ActiveX、.NETへの対応
(6) 弥生と戦わない戦略を選択〜中堅企業へシフトするOBC・新ERPシリーズ、PCA・Dream21シリーズを例に
3. 中堅企業向けの業務ソフト市場の動向
(1)ERP(Enterprise Resource Planning)パッケージの隆盛の要因
(2)基幹業務ソフトの高機能化の動向
(3)“つなぐ”技術から“遮る”技術へ〜セキュリティ対策に追われる企業とベンダ
4. 会計先進国・アメリカの動向
(1)クイックブックスのさらなる浸透と“挑戦者”マイクロソフトの苦闘
(2)PAPにあらずんば人にあらず〜インテュイット寡占状態の会計業界
(3)進化する記帳代行〜インド記帳代行会社が人気に
(4)米国税金申告事情〜税金申告ボランティア
(5)電子申告会社から人材派遣・アウトソース企業への変貌H&Rブロック社を例に
(6)小規模会計事務所の存在意義は
5. 我が国中小企業向け業務ソフト今後の動向
(1)ASP(Application Service Provider)の復権
(2)統合ソフトの動向
(3)中堅企業におけるERP(Enterprise Resource Planning)パッケージの浸透
(4)ソフト各社・最大の脅威は「Microsoft Business Solutions(MBS)」
(5)中小企業のセキュリティ対策
(6)ハードウェアの動向〜シンクライアントに再び注目が
(7)複数ライセンス、アクティベーション機能による知的所有権保護の浸透
6. まとめ
(1)税理士は会計業務をどう位置づけるか
(2)競争環境の変化にどう対応すべきか
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