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時潮
> 国税通則法に編入した犯則調査手続の再構築批判
共謀罪法と税金
東京会 八代 司
はじめに

改正組織犯罪処罰法(以下「共謀罪法」という。)が2017年6月15日の朝、参議院本会議で、自民、公明、日本維新の会などの賛成多数で可決、成立した。多くの国民が反対する中、参院法務委員会での採決を省略し、本会議で「中間報告」を行う異例の手法で、与党が採決を強行した。犯罪の合意を処罰する法律にもかかわらず、どんなことが「計画」や「準備行為」に該当するのか不明確なまま、「内心の自由」を処罰の対象とする。過去3度廃案になった共謀罪と本質的には変わらない。既遂を原則とする刑法体系の根本が変わる。さらに、同法の対象犯罪を277も掲げているが、それらが本当に必要なのかどうか、ほとんど議論もされず、多くの論点を残した法律となった。その277の対象犯罪に所得税法・法人税法・消費税法等違反も含まれる。税務相談等を日常業務としている税理士だけでなく、確定申告を行う納税者・国民に重大な影響を与える。以下、共謀罪法と税金の関わりについて検証したい。
一 共謀罪法の問題点

1 刑法の原則

わが国の刑法は「既遂」処罰を原則としている。法律で保護された法益を現実に侵害して、結果が発生した場合に処罰することになっている。戦前の治安維持法における乱暴な取り調べで多くの冤罪を生んだ反省からつくられた原則である。

犯罪が実現されるまでの過程を考えると、 行為者が犯行を決意してひそかに計画をたて、 犯行に用いる道具を用意したり、現場におもむくなど、犯罪の実行の準備にうつり(予備)、ついに、 犯罪の実行を開始するに至り(実行の着手)、実行行為を終了し、 犯罪を最終的に実現する(結果の発生)、というのがふつうであろう。刑法は、 のような、犯行を決意し計画する段階ではまだ処罰の対象としていない。すること又は国税の徴収若しくは納付しないことを煽動した者は、3年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。」と規定された。

ただし、刑法78条、88条、93条、破壊活動防止法39条、40条のように、特に重大な犯罪については、2人以上の者が犯罪の実行に合意することを陰謀として処罰する。 のように、犯罪の実行を(物理的に)準備する段階になると、これを予備といい、刑法ではとくに重い犯罪(例えば、殺人罪、強盗罪、放火罪、通貨偽造罪など)についてこれを予備罪として処罰している。すること又は国税の徴収若しくは納付しないことを煽動した者は、3年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。」と規定された。

しかし、刑法が本格的に登場するのは、 の実行の開始以降の段階、言い換えれば、未遂段階に入ってからのことである1。要するに、「未遂」は例外的なもので、「予備」の処罰は、殺人・強盗など重大な犯罪に限る。「共謀」はいわば「危険な意思」の処罰といえるが、このような処罰の対象は内乱の陰謀罪など極めて特別な場合だけである。共謀罪法はこの刑法体系を根本的に変えることになる。
2 共謀罪法の概要

(1)共謀罪の構成要件
共謀罪は、「話し合い、計画した」だけで犯罪となり、2人以上の者が合意するだけで処罰できる犯罪である。共謀罪が成立する要件として、重大な犯罪(死刑又は無期若しくは長期4年以上の懲役・禁固の刑が定められた罪)、実行しようとする犯罪が、組織的な犯罪集団の関与するもの、資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為を掲げている。

(2)犯罪の構成要件の曖昧さ
共謀罪法では、「共謀」という言葉に代えて「計画」という言葉を使っている。政府は、計画内容について「具体的、現実的に合意する必要がある。指揮命令系統や任務分担が必要」と、これまでの共謀罪よりも限定されると説明していた。しかし、6月になって法務省刑事局長が「(計画)は詳細まで定まっている必要はない」と答弁を変えた。

何をしたら犯罪 準備行為については、金田法務大臣は「計画に加え、準備行為があって初めて処罰される」と繰り返した。しかし、ATMでお金を下ろすなど、それ自体は危険性のない日常行為と区別がつかず、準備行為かどうかは捜査機関が個別具体的に判断する。準備行為がなくとも、捜査が始まる可能性がある。計画との関連を調べるため「行為の目的など主観面も捜査対象」(金田法相答弁)として、心の中で考えたことが処罰される。

金田法相は「対象を組織的犯罪集団に限定した」と説明してきた。しかし、捜査をしなければ、組織的犯罪集団の構成員かどうかは分からないはずである。法務省刑事局長は、「構成員以外を一般人というのならば一般人が計画に参画することはあり得る」として、構成員の周辺者が処罰される可能性を認めた。さらに、金田法相は、表向きは環境団体や人権団体であっても隠れ蓑の場合もあるとも指摘している。結局、組織的犯罪集団に該当するかどうかは捜査機関の判断しだいとなる。
「共謀罪」法(下線部分が修正追加)
第六条の二
次に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団(略)の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を二人以上で計画したものは、その計画した者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自主した者は、その刑を軽減し、又は免除する。
すること又は国税の徴収若しくは納付しないことを煽動した者は、3年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。」と規定された。

一 別表第四に掲げる罪のうち、死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁固の刑が定められているもの 五年以下の懲役又は禁固
すること又は国税の徴収若しくは納付しないことを煽動した者は、3年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。」と規定された。

二 別表第四に掲げる罪のうち、長期四年以上十年以下の懲役又は禁固の刑が定められているもの 二年以下の懲役又は禁固
※別表第四 「共謀罪」対象277の罪

(3)対象犯罪選定の非合理性
平成の治安維持法である共謀罪法を、東京オリンピックにかこつけて「テロ等準備罪」と言いかえた。「テロ対策」といえば、「葵の印籠」ごとく、皆が従うと思ったのだろうか、実に狡猾なやり方である。テロ行為対策のための準備行為を処罰する法律は既にある2。準備段階で取り締まる犯罪の数は当初提案の676から277に変えたが、共謀罪の本質に変わりはない。すること又は国税の徴収若しくは納付しないことを煽動した者は、3年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。」と規定された。

当初の法案に「テロ」という言葉が入っていないと指摘され、テロ等の文言を挿入し、修正して提案した。法案自体がテロ「等」というように、テロに限定しておらず、テロには関係しないと想定される経済犯罪や行政罰も処罰の対象で、むしろ数としては「テロ」に関係する犯罪よりも多い。すること又は国税の徴収若しくは納付しないことを煽動した者は、3年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。」と規定された。

共謀罪法の対象犯罪に、売春防止法、児童買春・ポルノ禁止法など、テロとどのように関わるのかわからないものも含まれている。一方、公職選挙法、政治資金規正法、政党助成法違反や商業賄賂罪、相続税法などが対象外となっており、対象犯罪の選別基準に合理性があるとは全くいえない。

「共謀罪」対象277の罪 5類型
類型1 テロの実行(110)
類型2 薬物(29)
類型3 人身に関する搾取(28)
類型4 その他資金源(101)
類型5 司法妨害(9)

3 捜査機関による恣意的な捜査

安倍首相は「一般市民が対象となることはあり得ない」と説明していたが、普通の団体が性質を一変させた場合も処罰対象の「組織的犯罪集団」になり得るという。「対象となるような人は一般人ではない」と言葉をすり替え、テロ組織や暴力団に限らず市民団体、労組などあらゆる集団が対象となり得る。さらに、「計画、合意」というように、「共謀」とは、人と人とのコミュニケーションそのものが犯罪行為となるため、検挙し、立証するためには、盗聴が有効な手段となる。潜入捜査も考えられる。実際に警察の令状なしのGPS 捜査が行われており、2017年3月15日、最高裁はその捜査方法は違法と断じた。恣意的な検挙や日常的に市民のプライバシーに立ち入って監視するような捜査が行われ、内心の自由を脅かす。自首の減刑減免規定で冤罪や密告推奨社会となる。

上述のように、犯罪成立の有無は捜査機関が第一義的に判断することになる。何かしらの犯罪に当てはめ、逮捕すれば団体の運動を潰すことができる。何が犯罪となるか分からない社会においては、法の支配が不安定となり、人々の活動が萎縮し、民主主義が危機に陥り、法を執行する人がコントロールする社会・独裁国家を生み出すことになる。

安倍政権は、特定秘密保護法(2013年)、戦争法(2015年)、番号法(2015年)、盗聴法拡大(2016年)に引き続いて、共謀罪法を成立させた。共謀罪法を設けないと国際的犯罪防止条約を締結できないというが、その条約自体がテロ対策を目的としたものではない。共謀罪法制定の本当の狙いは、政権に反対する勢力を抑え込み、黙らせ、運動を潰し、そして、戦争する国に向けて市民監視社会をつくることに目的があるのではないかと思料する。
二 脱税(ほ脱犯)の問題点

1 脱税(ほ脱犯)・租税回避・節税の違い

一般に、人々は私法上の取引において税負担を少しでも軽くなるようにと行動する。こうした税金を減らそうとする納税者の「節税」行為は、それが違法な行為でない限り、税務署から否認されることはない。しかし、違法といえないまでも、異常な行為で、その行為をそのまま認めると、通常の場合と比較して著しく公平性を欠く場合がある。こうした「租税回避行為」には税法上の否認規定があり、税負担が軽減されずに、課税される場合がある。すること又は国税の徴収若しくは納付しないことを煽動した者は、3年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。」と規定された。

しかし、こうした租税回避行為はいわゆる「脱税」とは異なる。「脱税」の場合は、実際にあった売上を帳簿から除外し、又は、実際には支払っていない経費を支払ったかのように帳簿等に計上するという隠蔽・仮装行為を用いて「偽りその他不正の行為」により、税負担を違法に軽減する行為をさし、刑罰の対象となる。ところが、節税と租税回避行為と脱税の境界が明確でない場合が少なくない。単なる売上の計上漏れ(帰属年度の相違)なのか、売上の脱漏なのかは、実際には紙一重ということが多々ある。

2 脱税(ほ脱犯)の概要

(1)脱税(ほ脱犯)の概念

脱税(ほ脱犯)の構成要件は、偽りその他不正の行為があること、税を免れた結果が発生していること、の因果関係があること、一般の刑法犯と同様、犯意(故意)があること、とされる。ここでいう、「偽りその他不正の行為」とは、「ほ脱の意図をもって、その手段としての税の賦課徴収を不能若しくは困難ならしめるようななんらかの偽計その他の工作を行うこと」(最高裁1967年11月8日判決)という。具体的には、二重帳簿の作成、証票書類の隠匿、取引名義の仮装などがその典型である。脱税犯の保護法益は、国の租税債権の確保にあり、脱税犯の反社会性、反道徳性などが挙げられる。

この「偽りその他不正の行為」は、しばしば重加算税賦課要件の「隠蔽・仮装の行為」と混同して使われるが、もっとも、その範囲はほとんど重なり合うものであるとの考え方が大勢を占める。ロッキード事件を契機に、1981年税制改正で「偽りその他不正の行為」の除斥期間が5年から7年に延長された。税務署の実調率が低下して所得の把握に不公平が生じ、実質的な負担の公平に対処するための法改正といわれた。

(2)脱税(ほ脱犯)の成立時期

わが国の租税確定手続は、申告納税制度を原則とする手続きが採用されている(通則法16条)。申告納税方式の下にあって、納税義務の確定は、第一義的には納税者義務者にこの役割が与えられている。納税義務者がこの役割を果たさない場合に限って課税庁が第二次的・補充的な役割を果たす。

脱税(ほ脱犯)は、原則として「税を免れた」ことを必要とする結果犯である。ほ脱犯の既遂は法定申告期限経過のときに成立する。法定申告期限前に偽計行為を伴う過少申告がなされても、その時点ではいまだほ脱犯は成立しない。納税者は、法定申告期限内であれば、いつでも一旦提出した自己の申告の内容を訂正し、変更することができるからである。偽計行為をともなう無申告の場合には、法定申告期限経過時に無申告ほ脱犯が成立する(既遂)。すること又は国税の徴収若しくは納付しないことを煽動した者は、3年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。」と規定された。

帳簿書類の虚偽記入、二重帳簿の作成、虚偽の契約書等の作成等の偽計行為とそれに基づく過少申告行為の双方が存在する場合に、両者をともに実行行為とみるか、それとも過少申告行為とみるべきか、諸説あるが、偽計行為は準備行為として、過少申告行為のみをほ脱犯の実行行為とみる。要は、納税者が偽計行為を行ったとしてもそれと関係なく適正な申告をすればほ脱犯は成立しない。ただし、帳簿書類の虚偽記入等の偽計行為が行われ、故意に無申告のまま法定申告期限を経過した場合には、当該経過時にほ脱犯が成立する。

虚偽不申告ほ脱犯にあっては、所得秘匿工作の存在が「構成要件的状況」として、ほ脱犯の構成要件をなす。共同正犯の成否を論ずる場合に当たって、かかる構成要件的状況を作出した者は、実行行為そのものに加担した者と同一ないしはこれに準ずる評価を受けると解する。虚偽不申告による所得税法違反に関し、裁判所は「 暗黙のうちに意思連絡の上、事前の所得秘匿工作を行い、構成要件的状況の作出に関与しているのだから、所論幇助犯にとどまらず、共同正犯に当たる」と判示している(東京高裁1991年10月14日判決)。

3 租税罰則の拡大

租税罰則が2010年度、2011年度税制改正で大きく変わった。脱税犯(不正手段により税を免れる行為)は「10年以下(従前5年)の懲役若しくは1000万円(従前500万円)以下の罰金又は科料」、秩序犯(申告書の不提出、検査忌避等の行為)は「1年以下の懲役又は50万円(従前20万円)以下の罰金」に強化された。さらに、故意による申告書不提出によるほ脱犯は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はこれらの併科となり、消費税の不正受還付罪は、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金又はこれらの併科となる。すること又は国税の徴収若しくは納付しないことを煽動した者は、3年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。」と規定された。

消費税の不正還付に対しては、受還付犯(既遂)の処罰規定があったが、2011年度税制改正で、未遂罪を処罰する規定ができた。消費税の不正受還付罪の未遂の成立時期は、不正な還付申告書を税務署に提出した時点で実行の着手があったものと考えられている。税務署から還付金を受領した時点で不正還付受還付罪の既遂となる3

4 共謀罪と脱税(ほ脱犯)

結果として脱税を実行しなかったとしても、所得税、法人税、消費税などの偽計行為等が「偽りその他の不正行為」とみなされ、共謀罪の対象犯罪となる恐れが強い。帳簿書類の虚偽記入、二重帳簿の作成、虚偽の契約書等の作成等が実行行為として十分考えられるが、計画・準備行為として、取引にかかる節税相談などが考えられる。

かつて法務省のホームページで組織的な犯罪の共謀罪として、対象となるケース・ならないケースが掲げられていた。対象なるケースとして「いわゆる脱税請負人集団の構成員らが、帳簿を操作するなどして多数の会社の脱税を行うことを計画」が掲げられ、対象とならないケースとして、「会社社長が、会社の業績が思わしくないことから、顧問税理士と話し合い、脱税をすることを計画」が掲げられていた。この対象となるケースとならないケースの境界が全く不透明である。すること又は国税の徴収若しくは納付しないことを煽動した者は、3年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。」と規定された。

対象となる「脱税請負集団」について、どういう集団を指すのかは不明で、税理士法人が該当しないともいいきれない。多数の会社といっても、何件から「多数」と判断できるのかわからない。帳簿を操作するなどの行為もどのようにでも解釈できる。納税者がうっかり売上金額を正規の帳簿に記載しなかった場合でも、ほ脱の手段として税の徴収を著しく困難にする工作がなされたとして共謀罪の対象だといわれかねない。税理士が決算で正しく修正するのだと主張しても、所得秘匿工作に該当すると捜査機関が判断すれば何でも犯罪になる可能性があり、「取り締まり罰則」となる。

2013年5月、広島国税局は倉敷民商会員の法人税違反にかこつけて、会員事務所と倉敷民商事務所を国税犯則取締法に基づく捜索・差押えを行った。2014年1月、岡山県警は民商事務員を法人税違反幇助及び税理士法違反で逮捕・起訴した。民商会員の「脱税」疑惑が弾圧の契機となった。民商の適正な活動が、法人税法違反の準備行為として捜査の対象になる恐れは十分に考えられる。

さらに、共謀罪法には実行に着手する前に自首した者は、刑の軽減や免除があるので、税務署に対する投書や電話などの密告も奨励され、冤罪の危険性も考えられる。

≪共謀罪の対象となる「偽り不正その他の行為」≫
■所得税法
偽りその他不正の行為による所得税の免脱等
偽りその他不正の行為による所得税の免脱
(所得税法第238条 、第239条
所得税の不納付(所得税法第240条)
■法人税法
偽りにより法人税を免れる行為等(第159条
■消費税法
偽りにより消費税を免れる行為等(第64条

5 国税犯則取締法の廃止と国税通則法への編入

2017年3月27日、国税犯則取締法の通則法への編入が可決成立した(2018年4月1日施行)。国税犯則取締法は、国税に関する犯則事件の調査および処理について特別の手続きを定めた法律であったが、国税通則法への編入に伴い、廃止された。犯則調査に関し、電磁的記録に係る証拠収集手続が規定された。記録媒体の差押えの執行方法や接続サーバ保管の自己作成データ等の差押えが整備された。併せて、扇動罪が国税通則法126条で「納税者がすべき国税の課税標準の申告(…)をしないこと、虚偽の申告をすること又は国税の徴収若しくは納付しないことを煽動した者は、3年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。」と規定された。

おわりに

フランク・パヴロフ物語『茶色の朝』(藤本一勇: 訳/ 大月書店)という小さな本がある。フランス政治を動かしたベストセラー寓話である。「茶色」は、ヒトラー率いるナチス党の制服の色だ。2002年春、大統領選でルペン候補がシラク大統領と一騎打ちで闘うという前代未聞の椿事にフランス社会は大きく動揺した。その時、人々がこの『茶色の朝』を発見し、自分たちが置かれた状況を理解し、何をなすべきかを考えようとこの物語を読んだ。「極右にノンを!」と運動が盛り上がり、ルペンは敗北した。

わが国では「極右勢力」の支持を背景に第二次安倍政権が誕生して5年近くになる。安倍政権は、戦前・戦中の日本と同様、「お上」の政府に対して「臣民」は黙って従わなければならないかのような国をつくりたいようだ。『茶色の朝』では、「茶色に染まった自由」であり、それ以外の色は許されない社会だ。『茶色の朝』を迎えたくなければ、思考を停止させないことだろう。共謀罪法は、廃止すべき法律である。

【参考文献】
北野弘久(著)黒川功(補訂)「税法学原論(第7版)」(勁草書房)


  1. 井田良「基礎から学ぶ刑事法(第6版)」有斐閣アルマ、2017年。189頁。
  2. 「公衆等脅迫目的の犯罪行為(テロ行為)のための資金等の提供の処罰に関する法律」
  3. 「平成23年版・改正税法のすべて」677頁。


(やしろ・つかさ)

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