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次の税理士法改正は如何にあるべきか
東京税経新人会 制度特別委員会
1.はじめに

東京税経新人会では、2016年7月からの年度も制度特別委員会を設置し、委員長に井上春幸、委員に小田川豊作、平石共子、佐伯正隆を選任した(担当副会長は奥津年弘及び八代司)。

第一回目の委員会の討論で、この1年間の中心的な課題として税理士法を取り上げることになり、「次の税理士法改正は如何にあるべきか」について議論を行ってきた。

比較的古い年配の会員が担当であることもあり、第二次世界大戦中に制定された税務代理士法と現行税理士法との比較や他の士業との比較も行いながら、憲法の理念にそった税理士法・税理士制度のあり方を検討し、現行税理士法の問題点と改正すべき方向を提示することとした。

これからの税理士制度を担う若い会員さん達に、引き続き深く検討していただき、一定の方向を見いだしていただければと思う。

2.次期税理士法改正にむけた議論がはじまる

2014(平成26)年3月20日に税理士法が改定されてから3年近くが経過した。
2014年の改定は13年ぶりであったが、「財務省の取り組み・規制改革」における「規制にかかわる法律ごとに設定する見直し年度等」において、税理士法は「見直し周期5年」とされていることなどから、日本税理士会連合会や東京税理士会では見直しの検討が開始され、日税連では、2016年6月に制度部が中間報告をとりまとめた(非公開)。東京税理士会でも2016年9月に制度部が中間答申を会長に提出し理事会に報告された。また、全国青年税理士連盟においても議論が始められている。

2014年改定における議論は、日税連が「一枚岩」を指示したうえで、「税務援助への従事の義務化」、「税理士が行う租税教育の法定化」、そして、国税庁との懇談後に改正要望項目から除外された「税務代理権限証書の提出を前提とした書面添付制度・意見聴取制度」など税理士をさらに税務当局の下請化へと推し進める改定案や「補助税理士制度の見直し」、「研修の義務化」などがその中心であり、税理士制度そのもののあり方を問うものは、「弁護士と公認会計士に対する税理士資格の自動付与(1科目の受験)」と「(財務大臣による)総会の決議の取消しの廃止」であったが、これも途中で腰砕けとなり最後に纏められた改正要望項目は「公認会計士に的を絞った資格取得問題」だけとなった。

結果は、税務援助の取り組みが各税理士会によって異なっていることなどから「税務援助への従事の義務化」は見送られ、「・・・書面添付制度・意見聴取制度」も代理と添付のセットに問題があること、意見聴取の有無が更正等の処分とリンクすることには手続上の問題があるとして最終要望項目からも除外され、税理士会の会則に「租税に関する教育その他知識の普及及び啓発のための活動に関する規定を定めること」が設けられるにとどまった。

また、税理士制度のあり方を問うものについては、公認会計士に係る資格付与の一部「見直し」が行われたに過ぎない。

次の税理士法改正への検討事項として、税理士制度のあり方そのものを問う事項についての議論が望まれる。

3.憲法の理念にそった税理士法の改正が求められる

次の税理士法改正に向けては、(1)税理士制度のあり方との関係から、税理士法第1条(税理士の使命)、第3条(税理士の資格)、第7条「試験科目の一部免除等」などの検討、(2)税理士制度を、主権在民の立場から税に関する国民の権利を擁護する制度として確立するため、第41条(帳簿書類の作成)、第41条の2(使用人等に対する監督義務)、第41条の3(助言義務)や、49条の2(税理士会の会則〜うち税務支援など) の一部変更、第49条の17(総会の決議の取消し)、第49条の19(一般的監督)、第55条(監督上の措置)、第44条(懲戒の種類)から第48条(懲戒処分の公告)についての見直し、(3)申告納税制度を発展させ実務面からも支えるために、 税理士・税理士会が果たすべき役割、あるいは果たせる役割の限界、 電子化、ソフト化が発展するなかで、申告納税等に関する国民相互間での自由な相談等の進展をどう保証するかとも関連し、第2条(税理士の業務)、第50条(臨時の税務書類の作成等)、第8章(罰則)についても検討すべきと考える。

戦後の新しい憲法のもと、国の骨格にかかわる様々な民主的改革が行われたが、税務代理士法から税理士法への変革については、民主化に影が差し始めた時期に行なわれたことなどから憲法理念にそった民主的改革は不十分であったと言われている。

なお、次の週刊誌記事に見られるような、税理士法が国民・納税者を守るための法律として機能するのではなく、国家がその意に反する運動を行っている団体に対する弾圧を助長するために利用されることのないようすべきではないだろうか。

「確定申告の際、申告者が作成した決算書の数字を税務ソフトに入力するといった手伝いをしただけで民主商工会の女性事務局員(禰屋さん)が脱税がらみの「法人税法違反」等で逮捕・起訴され、しかも当の申告者が逮捕も勾留もされていないのに、なんと1年2ヵ月間(428日)も勾留される。こんな異様な事件が岡山地裁で審理中だ。・・・・・・しかも、この種の経済事件とはまったく管轄外のはずの岡山県警公安部は翌2014年1月21日、禰屋さんを『法人税法違反』で逮捕したのに続き、2月には『税理士法違反』で再逮捕。だが、脱税当事者であるはずの建設会社社長夫婦は後に在宅のまま懲役1年6ヶ月・執行猶予付の有罪判決が確定したものの、1日も勾留されず、なぜか広島国税局の捜索すら受けていない。

・・・一方、建設会社の確定申告業務には何も関与していなかった倉敷民商事務局長の小原淳氏と事務局次長の須増和悦氏の二人も、14年2月に『民商会員が確定申告書の作成・提出に際して、税理士でもないのに会員自身が作成した決算書の数字を、税務ソフトに入力するなどの実務応援をした』として『税理士法違反容疑』で逮捕された。」(週刊金曜日2016年1月19日号)

憲法前文の「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。・・・・・・ 」に相応しい税理士法を求めていきましょう。

4.戦前における税務代理士法の成立とその背景

1937年(昭和12年)の日中戦争勃発から第二次世界大戦の時期にかけて、戦費調達のため大増税が行われ、税制度もより複雑化された。税務当局においては官吏の多くが兵員として出征し人員不足に陥り、税務行政の執行に支障をきたすことになり、さらに税務代弁者等の数も減少、不適正な税務指導等を行う者も多くなってきた。

これらのことから、税務代理士の制度を設け、その資質の向上を図ると共に、これらの者に対する取締りの徹底が必要であるとされ、1942年(昭和17年)2月23日に税務代理士法が制定されるに至った。

弁護士、計理士、租税又は会計に関し学識経験を有する者は税務代理士たる資格を有することになった。税務代理士は税務を行う者の総称であり、この税務代理士なる名称が後の税理士の前身となったと言われている。

5.アメリカ占領下における税理士法の成立

第二次世界大戦終盤は、連合国(アメリカ・イギリス・中国・ソ連を中心とする諸国)とファシズム三国同盟(ドイツ、日本、イタリア)との戦争となり、敗戦した日本は連合国の支配(形式上、実態はアメリカ占領下)のもと、財閥解体、農地改革、労働組合の助長、教育基本法の制定、婦人参政権の確立など諸分野での民主的な改革が行われてきた。

しかし、1945(昭和20)年のヤルタ会談を発端とする米ソ対決冷戦が1949年のドイツの東西への分裂、朝鮮戦争の勃発(1950年6月)などを経るなかで、アメリカの占領政策が転換されレッドパージという民主勢力に対する凶暴な弾圧が行われ、自衛隊の前身である警察予備隊が組織されることなどにより、民主的な改革は遠ざかることになり、その遠ざかるなか1951( 昭和26) 年6月15日、税理士法が成立した。

参考資料( 税経新人会全国協議会第20回全国研究集会記念誌)
(昭和39年「改正」法案に至る経緯と税理士法改正に関する基本要綱成案まで・唐木田明雄氏)

税務代理士法が廃止され、代わって税理士法が制定された。敗戦に伴う国家体制の変革に連動したものであったが、資格取得が許可制から試験制度に、また強制加入の特別法人組織が入退会の自由な社団法人に改組されたにとどまり、税務代理士法上の取締法的体系は現代法に受継がれた。既に新憲法は制定され、旧来の法律や制度の改廃著しい当時にあって、不思議なほどその影響の少ない変革であった。

6.税務代理士法と税理士法の共通点と相違点

税務代理士法と税理士法の相違点あるいは共通点などを簡単にまとめると
(1)税理士の使命
税務代理士法にはその定めはなかったが、税理士法制定当時は職責として「・・・中立な立場において」と定められ、1980年(昭和55年)6月の改定で現在の「税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする」と変更された。

(2)税理士の業務
税務代理士法では「所得税、法人税、営業税その他命令をもって定むる租税に関し他人の委嘱により税務官庁に提出すべき書類を作成し又は審査の請求、訴願の提起その他の事項(行政訴訟を除く)に付代理を成し若しくは相談に応ずるを業とす」と定められていた。

現在の税理士法では原則全ての租税に関し、一 税務代理(税務官公署に対してする主張等につき代理・代行すること)、二 税務書類の作成、三 税務相談と定められ、また、租税に関する裁判においての出廷陳述権も認められている。なお、1980年(昭和55年)6月の改定前は、税目について税務代理士法と同様に税目の限定列挙であった。

(3)税理士(税務代理士)の資格者と税理士(税務代理士)
税務代理士法では、「一 弁護士、二 計理士、三 命令で定める官庁にて三年以上国税の事務に従事したる者、四 前各号に掲げる者の外租税又は会計に関し学識経験を有する者」と定められ、税務代理士として業務を行う者は「主務大臣の許可を受けること」と定められていた。

現行税理士法では、一 税理士試験に合格した者、二 試験科目の全部(第六条)について税理士試験を免除された者、三 弁護士、四 公認会計士試験に合格した者のうち一定の税法に関する研修を修了した公認会計士と定められている。

なお、二(試験科目の免除等)については、税理士法(試験科目の一部の免除等)第七条及び第八条に多くの規定がある。具体的には、「修士の学位」、「大学の教授等」、「官公署における事務経験」などである。

(4)税理士業務の制限、名称の使用制限(業務独占について)
税務代理士法では「許可を受けたる者に非ざれば税務代理士その他これに類する名称を用ふることを得ず」と定められていたが、税理士法では「税理士(税理士法人)でない者は、法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行ってはならない。」、「税理士でない者は、税理士若しくは税理士事務所又はこれらに類似する名称を用いてはならない。」と定められている。

(5)脱税相談の禁止、助言義務規定、帳簿作成の義務などについて
これらの項目は、税務代理士法から現在の税理士法まで綿々と引き継がれている。

(6)主務大臣等による税理士、税理士会の監督等
これらの項目は、税務代理士法から現在の税理士法まで、やはり綿々と引き継がれている項目である。

(7)罰則について
上記(6)と同様、基本的には監督官庁による税理士等の処罰であり、税務代理士法と税理士法では大きくは異なっていない。

7.税理士法改正の視点

(1)税理士の使命について
1980(昭和55)年に改定された現行法の、「・・・独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって・・・」について、「申告納税制度の趣旨にもとづき、納税者の権利を擁護することが使命として確立した」という見解が税理士会のなかでは主流となっているようだが、申告納税制度の理念が軽視され、納税者の権利を敵視さえする現在の税務行政のなかで、税理士は国民・納税者の権利を守る職業であることを明確に宣言することが必要ではないだろうか。

1972(昭和47)年5月に日本税理士会連合会が全国の税理士の英知を集め作成した「税理士法改正に関する基本要綱」では、税理士の使命の明確化を求め、「税理士は、租税に関する職業専門家であり、納税者の代理人として実定法による納税義務の実現および権利救済に奉仕することは当然であるが、さらに、租税の憲法的意義をふまえて、租税制度全般にわたって国民の権利を擁護すべき立場を堅持すべきものと認められる」として、「税理士は、納税者の権利を擁護し、法律に定められた納税義務の適正な実現をはかることを使命とする。」とした。

これを踏まえ、申告納税制度の発展と納税者の権利擁護を前進させるための、税理士の使命を求めるべきである。

なお、他の士業では、弁護士法(1949(昭和24)年6月10日成立)の「基本的人権を擁護し、社会正義を実現すること」という崇高な使命はもとより、司法書士法(1950(昭和25)年5月22日成立)でも「・・・登記、供託及び訴訟等に関する手続の適正かつ円滑な実施に資し、もって国民の権利の保護に寄与することを目的とする」と権利保護が謳われている。税理士法成立の10カ月前(朝鮮戦争の開始1ヶ月前)に成立していることが影響しているのであろうか。公認会計士法(1948(昭和23)年7月6日成立)でも「・・・会社等の公正な事業活動、投資者及び債権者の保護等を図り、もって国民経済の健全な発展に寄与すること」と、それなりの「保護等」が謳われている。

ただ、社会保険労務士法(1968(昭和43)年6月3日成立)では「・・・業務に関する法令及び実務に精通して、公正な立場で、誠実にその業務を行わなければならない」と上記3つの士業とかなり異なり、税理士法の使命に近い内容となっている。

他士業のことではあるが、社会保険労務士法でも本来「社会保険に関する法令にもとづいた業務を通じ働く者の権利の擁護または保護に寄与する」のような使命が謳われるべきではと考えるが、米ソ冷戦下の真っ最中である1968(昭和43)年に成立した、という時代背景が影響しているのであろうか。

(2)税理士の業務について
税務代理士法では「所得税、法人税、営業税その他命令をもって定むる租税に関し他人の委嘱により税務官庁に提出すべき書類を作成し又は審査の請求、訴願の提起その他の事項(行政訴訟を除く)に付代理を成し若しくは相談に応ずるを業とす」と定められていた。現行の税理士法では、他人の求めにより租税(一定のものを除く)に関し、一 税務代理(税務官公署に対してする主張等につき代理・代行すること)、二 税務書類の作成(税務官公署に対する申告等に係る申告書等を作成すること)、三 税務相談(税務官公署に対する申告書等の作成、租税の課税標準等の計算についてなどの相談に応ずること)と定められ、また、租税に関する裁判においての出廷陳述権も認められている。なお、1980年(昭和55年)6月の改定前は、税目について税務代理士法と同様に税目の限定列挙であった。

これも税理士法の成立当時の、税務代理士法の定めと大きくは変わっていない。しかし、税務関係書類の作成・提出などが電子化・ソフト化するなかで、また、申告納税等に関する国民相互間での自由な相談等の進展をどう保証するかとも関連して、税理士の業務の見直しも必要となってきているのではないだろうか。「税理士の業務」については、次の税理士業務の制限の項で検討する。

(3)税理士業務の制限、名称の使用制限(業務独占について)について
税務代理士法では「許可を受けたる者に非ざれば税務代理士その他これに類する名称を用ふることを得ず」と定められ、税理士法では「税理士(税理士法人)でない者は、法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行ってはならない」、「税理士でない者は、税理士若しくは税理士事務所又はこれらに類似する名称を用いてはならない」と定められている。
このこと自体は職業法の側面を持つ税理士法においては当然のことであろう。

しかし、高度な専門的知識を有する税理士業務のなかに、サラリーマンの医療費控除、年金生活者の確定申告(申告不要制度ができたが)、中小零細な事業者の税金相談や確定申告書の作成補助事務までが含まれて良いのだろうか。

法令解釈通達により「・・・『業とする』とは、当該事務を反復継続して行い、又は反復継続して行う意思をもって行うことをいい、必ずしも有償であることを要しないものとし・・・」とされたことにより、税理士法が国家がその意に反する運動を行っている団体に対する弾圧法規として利用されることになった側面も見逃すことはできない。

憲法前文(主権が国民に存する)、第11条(基本的人権永久不可侵等)、第12条(個人の尊重)、第21条(集会・結社・表現の自由等)などからして、これらの法及び通達は不合理であり、税理士法52条の「税理士業務」を高度な専門的な業務だけに制限すべきではないだろうか。具体的には、税理士業務は税務代理及び有償による税務書類の作成・税務相談に留めるべきであろう。法は多くの一般市民の生活の幸福のためでものでなければならない。

(4)脱税相談の禁止、助言義務規定、帳簿作成の義務などについて
これらの項目も、税務代理士法から現在の税理士法まで綿々と引き継がれている。
一般論として脱税相談の禁止、助言義務規定、帳簿作成義務はあたり前であるが、それが法律として強制され一人歩きすることに危険性はないのだろうか。まして、財務大臣による罰則まで用意されているのである。

相談の内容が社会的に多くの国民が「脱税」と認識するような「脱税相談」は税理士会の会則のなかで禁止・処分等を規定すべきであり、相手側(行政)が「脱税」と認定するような仕組みは廃止すべきである。

助言義務規定、帳簿作成の義務も同様であり、最近では税理士会でも「コンプライアンス」という言葉が多用されているが、法が万能であるとは限らない。法律は社会の状況の中で変遷するものであり、明治憲法下において侵略戦争を推進した数々の法律は、戦後の民主改革のなかで存在しえなくなった。法は、主権在民の憲法観に裏打ちされた市民の常識の基礎のうえに成り立つものである。

(5)税理士業務の制限、名称の使用制限(業務独占について)
税理士法において、「税理士の資格」が、第一号で「税理士試験に合格した者」となったことは大きな改正点であり、戦後社会の民主化のなか「法の下の平等(憲法14条)」、「職業選択の自由(憲法22条)」などにそったものである。

「税理士法制定時においては一定の有資格者を確保するため政策的に既存の国家資格者である弁護士及び公認会計士を税理士の有資格者とした経緯はあるが、現在の税理士登録者数を考えてみると税理士法第3条において弁護士、公認会計士に無条件に資格を付与することについては、合理的な理由は見いだせない。」(2014年3月制定の税理士法改定時における全国協議会の意見)。

ただ、弁護士法における弁護士の職務(弁護士法第2条)では、「弁護士は、当然、弁理士及び税理士の事務を行うことができる。」と定められており、税理士法第3条3項「弁護士(弁護士となる資格を有する者を含む)」を削除しただけでは問題は解決しないであろう。

司法試験合格者は、日本の法制度の担い手として「1年間司法修習生として教育を受ける制度」があり、弁護士は「司法修習生の修習を終えた者」(弁護士法第4条)であり、公認会計士は「実務経験(業務補助等)の期間が2年以上あること、さらに実務補習を修了し、内閣総理大臣の確認を受けた者」(公認会計士法第3条)であることが、それぞれの資格取得の要件となっていることから、税理士の資格取得と同一視することはできない。

税理士法第3条(税理士の資格)を、「一 税理士試験に合格した者、二 第六条に定める試験科目の全部について、第七条又は第八条の規定により税理士試験を免除された者」に限定し、弁護士、公認会計士について、また、大学の教授、修士卒業者等や税務官公署経験者などについては第七条又は第八条の規定のなかで整理し、弁護士、公認会計士については、その資格業務における実務経験10年程度で税理士試験免除という制度も考えられる。

なお、官公署事務経験者の一部科目免除等については、国税当局が税理士及び税理士会を監督し、税理士会及び税理士が、その下請化が強まっている現状があり、その下請化の補助的な役割を果たしていることとの関係からは一定見直しの必要がある。また、憲法の要請からも一定の受験をすべきと思われる。

ただ、納税者の視点からすると、資格者問題はそれほど大きな問題でないと思われる。

(6)税理士・税理士会の自治について
これらの項目は、税務代理士法から現在の税理士法まで綿々と引き継がれている項目であり、

現行税理士法では、第45条(脱税相談等をした場合の「財務大臣による」懲戒)、第49条の17(財務大臣による税理士会総会決議の取消し)、第49条の19(一般的監督〜財務大臣による税理士会に対する業務勧告、帳簿書類等の検査など)、第55条(監督上の措置〜国税庁長官による税理士等への質問・検査など)、第57条(事務の委任〜国税庁長官の税理士監督上の措置を税務署長等への委託)などがある。

税理士の使命が「納税者の権利を擁護すること」に変われば、財務大臣や国税庁長官による税理士・税理士会への監督等は全て廃止されるべきである。ただ、完全な自治権を確保するためには、税理士会及び日本税理士会連合会に、これらの自治を担う体制がとれること、そして、税理士業務が「税務官公署へ提出する申告書等にかかわる税務代理等を行うこと等」から税務官公署との情報交換などの体制をとれることが必須要件になると思われる。

弁護士会では、「資格審査会」、「懲戒委員会」、「綱紀委員会」などのいわゆる法定委員会の他、数多くの委員会を設置し相当な労力を消耗している。また、法定委員会には弁護士だけでなく、裁判官、検察官、学識経験者なども加えることになっている。

このような制度を税理士会等に構築することは、税理士会運営の費用が相当多くなること、会員の税理士会業務への参加が多くなるとともにその責任が飛躍的に重くなること、会費が高くなること等が生じると思われるが、これに耐えられるのか、これらの点を税理士会会員において真剣に検討する必要がある。

(7)罰則について
現状では、基本的には財務大臣による処罰であり、税理士会の自治のもとでの処罰・罰則を定めるべきであろう。

税理士(税理士法人)でない者が、対価を得て、かつ、継続して税理士業務を行うことに対しては、それなりの罰則が必要であるが、税理士法59条(税理士でない者が税理士業務を行った場合の罰則等)での「2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する」との規定は余りにも重くないだろうか。司法書士法や社会保険労務士法の「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する」なども参考としつつ、検討が必要である。

国民主権の表現のひとつである申告納税制度のもと、国民が租税についての相談を誰にするかは自由であり、相談を受けた者が処罰されることがあってはならない。仮にあったとしても罰金刑程度にすべきである。

(8)他の項目及び税理士・税理士会の社会公共性について
他に検討すべき項目は、税理士試験のあり方、税理士法人制度、臨時の税務書類の作成等、出廷陳述権、税理士職業賠償責任保険などがあるが、上記(1)から(7)を検討するなかで自ずと方向性が見いだせる項目ではないだろうか。

また、税理士法と手続法との関係、例えば、法令に合致しない無予告調査時において税理士の守秘義務が免責されるのかどうか等、も今後研究が必要なテーマだと思われる。

税理士制度が社会にとって有用であるかどうかは、税務援助への参加(あるいは独自の援助事業)や公益的活動への積極的な参加などがその指標となるのであろうか。これらの活動もその取り組み方によっては社会にとって有用な活動となるであろう。だが、そのことで、生活すら出来ない低いレベルの課税最低限、一番の大衆課税である消費税の税率引き上げなどから目をそらすことなく、そして、社会保障制度などの切捨てによる国民生活の破綻、中小零細事業者の相次ぐ倒産などを根本から改革する、憲法理念にそった民主的税制や社会保障の充実をめざすことこそが、本当の意味で社会に有用な活動ではないだろうか。

また、税理士は、シャウプ勧告の「納税者の代理人を立派に務め、税務職員をして法律にしたがって行動することを促進する積極的で見識の広い職業専門家」であることが何よりも重要ではないだろうか。
(以上)

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