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国税通則法に国税犯則取締法を混入した危険
立正大学法学部客員教授・税理士 浦野 広明
国税犯則取締法(国犯法)が2017年度税制改定によって国税通則法(通則法)に混入された。旧国犯法については通則法に11章(犯則事件の調査及び処分)を設けて、その中に定めた。本稿は納税者を犯罪者におとしいれるような法改定の危険点について述べるものである。なお、国犯法は通則法に混入されたが本稿では、おおむね混入前の国犯法に基づき述べる。

1. 序

今から80年前、総力戦遂行のために国家総動員法(総動員法)が制定された(1938年)。この法によって、政府は、「国防目的達成」のため、あらゆる人的・物的資源を「統制運用する」大幅な権限をもった。国民は、役場の兵事係が持ってくる召集令状により人的資源として戦線に送り込まれた。

戦争法(安保法制)が成立したのは2015年9月19日であった。この法は、米国が行ったアフガニスタン戦争、イラク戦争の際に日本政府が「戦闘地域」とよんでいた場所にまで自衛隊を派兵し、米軍への軍事支援をすることをめざしたものだ。戦争遂行のためには、80年前と同様に平和(戦争反対)を唱える者を抑圧するしかない。そのために必要なのが治安立法である。戦争法の成立下で治安立法である共謀罪が登場している。

そして、国税通則法(通則法)に国税犯則取締法(国犯法)を混入する治安立法が成立した(2017年度税制定)。毒(通則法)に猛毒(国犯法)を加えたのである。

国税通則法(通則法)は、国税に共通する基本的事項(総則、納付義務の確定、納付・徴収、納税猶予・担保、還付・還付加算金、附帯税、更正・決定・還付等の期間制限、調査、不服審査・訴訟、雑則及び罰則の10章)からなる。

通則法に限らず法は究極に支配階級の意思を表現する。法は支配階級の意図をむきだしにはできない。支配者の意図は対立する国民の意図とぶつかり、それぞれが持っている力の程度によって法は規定される。被支配層の意図を一定の範囲で反映するのである。つまり、その限りで支配者の意図は制限される。すなわち法は、基本的には支配者の利益を維持しながら、その中に被支配者の利益を反映し具体化するという二面性を内在させている。その一面だけをとらえて、それをただちに法の趣旨や目的とする誤った理解に導く向きがある。法の二面性の無理解は2012年度通則法改定を改正というに至る。
2. 国税通則法

(1)通則法の創設
国税通則法(昭37法66)は1962年に創設された。制定当時には「政治的暴力行為防止法」(政暴法)の税務版だとさわがれ、学会、言論界、中小企業や労働者の団体などから、はげしい批判をうけた。政暴法は、1961年5月13日、自民、民社両党が議員立法で国会に提出された。政暴法は、傷害、逮捕監禁、強要、集団的暴行、脅迫、器物損壊、官邸国会侵入などの、大衆運動の日常の過程でおこりがちな事柄のすべてを政治的暴力行為の概念にとりこんだ。小企業のささやかな労働争議から安保条約反対運動のような大国民運動にいたるまでの、ありとあらゆる民主的大衆運動を治安機関の管理のもとにおき、これを弾圧することをねらったものであった。さすがに反対の前に同年6月8日夜遅く、政暴法案は継続審議となった。しかし、民主勢力はたたかいの矛をおさめず、闘争を継続し、1961年末の通常国会でついに政暴法を廃案に追い込んだ。

政暴法を廃案に追い込んだ運動は、国税通則法の反対運動に引き継がれた。反対運動に抗しきれず、政府は国税通則法案の修正を余儀なくされた。「実質課税の原則」「租税回避行為」「行為計算の否認」の名における重課税を行う条項、「記帳義務」、「納税義務に関する調査」条項が法案から削除された。他方、通則法は自主的な任意団体(人格のない社団等)の納税義務等を定め、課税権力によって民主運動を押さえつける治安立法としての役割を担うことになった。

(2)通則法の2012年度改定
2012年度通則法改定は、事前通知をする場合(74条の9)と事前通知をしない場合(74条の10)の規定を創設し、税務署の恣意的な判断で抜き打ち調査ができるようにした。

通則法74条の9は、税務署長は、税務調査に際し、納税義務者等に、事前に調査を行うということおよび調査に係る 開始日時、 場所、 目的、 対象税目、 対象期間、 対象帳簿その他の物件を通知しなければならないとした。74条の9第1項(納税義務者に対する調査の事前通知等)は、税務署長が部下の職員に調査権を行使させる場合、税務署長自らが納税者や代理人に通知をする事項を羅列している。事前通知で一番重要な調査理由の開示(通則法が規定する調査の必要性)が欠落しており、事前通知とはいえない。一方、同法74条の10は、調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める場合には、通知をしないとしている。憲法の適正手続(31条、13条)に違反した規定である。
3. 国犯法

(1)国犯法の大要
通則法に混入された国犯法は、国税(関税及びとん税〈船舶の港湾利用税〉を除く)に関する犯則事件(租税犯)について、その調査・告発・通告処分などの手続を定めたもので、1900年に制定・施行された。制定時の法律名は「間接国税犯則者処分法」であったが、1958年に「国税犯則取締法」(国犯法)と名称を改めた。国犯法に基づく調査および処分の対象となる犯則事件は、すべての税法が規定する罰則の対象とされる租税に関する犯罪(租税犯)である。

国犯法の規定は大別して、 収税官吏の国税の犯則事件の調査、 収税官吏の犯則事件の処分、 通告処分、告発その他国税局長または税務署長の処分、 国税の徴収・納付を阻害する犯罪及び本法に基づく検査を妨害する罪の処罰、 扇動犯、からなる。この法律は、地方税にも準用される(地方税法71条、72条の73、73条の41等)。

国犯法および同法施行規則に規定されている収税官吏は、国税庁長官、国税局長および税務署長並びに国税庁、国税局および税務署の職員で、国税に関する犯則事件の調査を行う部課に所属し、かつ、その所属長から、国犯法に定められた収税官吏の権限行使を命ぜられた者である。

刑事訴訟法は、刑事事件につき、刑罰法規を適用する手続を定めた法律である。本来、犯罪は、刑事訴訟法の手続によって捜査機関による検査と裁判所による審理裁判が行われるのが原則である。しかし、犯則事件の調査は、租税犯が特殊だという理由で刑事訴訟法の手続と異なり収税官吏が行う。警察官は収税官吏の求めに応じて、収税官吏が行う臨検・捜索・差押えを援助する。

間接国税以外の犯則事件に関する収税官吏の調査手続について、津田實・法務省大臣官房・司法法制調査部長は、「告発の前提となる手続であり、行政機関のする行政処分たる通告処分のための手続でない。したがってこれらに関する法則は刑事訴訟法的性格を有し、司法的性格を有する。」(『国税犯則取締法講義』帝国判例法規出版社1959年)と述べる。また、臼井滋夫東海大学教授(元大阪高検検事長)は、「およそ犯罪については、特別の定めがない限り、刑事訴訟法の規定にしたがって、捜査機関による捜査と裁判所による審理裁判が行われるのが一般である。しかし租税犯については、その特殊性から、刑事訴訟法による通常の刑事訴訟手続とは異なった調査及び処分の手続が、本法によって認められている。」という(『国税犯則取締法』信山社1990年)。

(2)国犯法の犯則調査
犯則事件の調査は、租税犯の特殊性を考慮して、収税官吏が行い、警察官は、収税官吏の求めに応じて、収税官吏が行う臨検・捜索・差押えを援助する。収税官吏は、犯則嫌疑者もしくは参考人に、任意調査として、質問、検査し、任意に提出された物の領置を行い、強制調査として、臨検、捜索、差押を行う。強制調査は、原則として裁判官の許可状を必要とする。しかし、間接国税に関する犯則事件にあっては、一定の場合裁判官の許可状なしに強制調査を行う。

犯則調査規定は、2017年度改定によって、 コンピューターの差押え、 接続サーバ保管のデータ等の差押え接続サーバ保管の自己作成データ等の差押え、 コンピューターの保管者等への記録差押え命令、 コンピューター扱者に操作要請、 通信事業者等に通信履歴の記録を消去しないよう求めるなどとした。また、国税犯則調査規定が関税法に比べ緩やかだとして、 置き去った物件の差押え、 郵便物等の差押え、 強制調査の夜間執行、 一定の領置物件の国庫帰属、 管轄区域外における職務執行を規定した。改定犯則調査規定は2018年4月1日に施行される。

(3)脱税犯
租税犯は図のように脱税犯と秩序犯に分類される。
脱税犯は、 逋脱(ほだつ)犯(偽りその他不正の行為により税を免れる罪。不正の行為とは、税を免れることを可能とする行為であって、税務署が不正と認定するすべてのもの)、 受還付犯(偽りその他不正の行為により税の還付を受ける罪)、 源泉所得税不納付犯(徴収の義務を負う者がその義務を怠り、徴収して納付すべき税を納付しない罪)、である。秩序犯は、租税犯から脱税犯を除いたものであり、申告書不提出、調書不提出・虚偽記載、虚偽帳簿書類提示等がある。

租税犯と罰則
逋脱・不正還付犯
所得税法238条、法人税法159条、相続税法68条、消費税法64条
所得税法239条1項(源泉所得税の納税義務者)・244条2項(源泉徴収すべきもの) 懲役10年以下
罰金1,000万円以下
印紙税法22条(印紙税を免れる) 懲役10年以下
罰金100万円以下
酒税法54条(酒類、酒母又はもろみを無免許で製造) 懲役3年以下
罰金100万円以下
所得税法239条(源泉所得税の納税) 懲役10年以下
罰金100万円以下
所得税法240条・244条2項(徴収したもの) 懲役10年以下
罰金200万円以下
滞納処分免脱犯
国税徴収法187条1・2項(納税者・その財産を占有する第3者) 懲役3年以下
罰金250万円以下
国税徴収法187条3項(行為の相手方) 懲役2年以下
罰金150万円以下
秩序犯
〈申告書不提出犯等〉所得税法242条(例えば給与支払い500万円超、役員給与150万円超の源泉徴収票不提出)、法人税法161条(代表者の自署押印)・162条(偽りの、中間申告)、相続税法70条(退職金調書不提出、検査忌避)、消費税法65条(中間申告)、他 懲役1年以下
罰金50万円以下
消費税法68条(検査忌避、偽り帳簿提出)、国税徴収法188条(答弁拒否、偽り陳述、検査忌避、偽り書類提出) 懲役1年以下
罰金50万円以下
国税通則法128条(審理のための質問検査忌避) 懲役1年以下
罰金50万円以下
印紙税法25条1・3・4号(印紙を貼らなかった者等) 罰金30万円以下
印紙税法26条(印紙に消印をしなかった者等) 懲役1年以下
罰金50万円以下
改定通則法126条(扇動犯) 懲役3年以下
罰金20万円以下

(4)扇動犯
国犯法の規定は通則法に新しく設けた11章に混入したのであるが、国犯法22条にあった「扇動犯」については11章からはずし、通則法10章(罰則)の126条に次の規定を潜入した。

【改定通則法126条】納税義務者がすべき国税の課税標準の申告(その修正申告を含む。以下この条において「申告」という。)をしないこと、虚偽の申告をすること又は国税の徴収若しくは納付をしないことを扇動した者は、3年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。

2納税者がすべき申告をさせないため、虚偽の申告をさせるため、又は国税の徴収若しくは納付をさせないために、暴行又は脅迫を加えた者も、前項と同様とする。

あからさまに納税者を犯罪人として扱おうというのである。消費税を中心とする応能負担原則に反する税制、軍備拡大、格差と貧困などの矛盾の激化を覆い隠すために税制における治安立法が登場する。治安立法というのは治安が乱れるのを取り締まる立法である。治安の乱れは階級間の矛盾のあらわれである。応能原則の実現、消費税をなくせ、福祉に税金をまわせ、などの運動が、支配者からみれば治安の乱れである。戦後日本の政治過程において治安立法が強化されるのは、国民の運動の発展にともなってであった(たとえば1952年に施行された破壊活動防止法)。

このような治安立法の基本的特質は、警察が司法警察権でなく、行政警察権を中心に据えることである。司法警察権は、犯罪が行われた場合に犯罪者を捜索し、これを司法機関に送ることを任務とし、刑事訴訟法にしたがって動く。この場合、あくまで、犯罪が発生した後に警察権が介入する。これに対して、行政警察権というのは、犯罪捜査ではなくて、犯罪予防に重点を置く警察、予防警察権である。つまり、犯罪が行われていない段階で、一般市民や自主的な団体を対象として動くのである。司法警察権は犯罪者のみを相手とする。しかし、予防行政警察権は、まだ犯罪が発生していないのに、将来その人が罪を犯すかもしれない、だからそれを予防するといって介入してくる。

上記「扇動罪」は、おまえは脱税を犯すかもしれないから見張ってやるといって、納税者のなかに警察官や調査官が入ってくるのである。そうなると、犯罪と関係ない納税者が、警察権・課税権の監視、介入の対象とされる。犯罪予防ということを認めたら、どこまで警察権・課税権が入ってくるか分からない。この犯罪予防(扇動予防)が今次通則法改定(治安立法)の特色である。治安立法は秘密警察(公安・警備)を強化する。将来行われるかもしれない犯罪にそなえて、いろいろ調査をして資料を集める。それはかくれてやる。予防のための調査活動は、尾行、はりこみ、団体へのもぐりこみなどである。ここでいう犯罪は、一般的市民的犯罪でなく、かれらのいう「治安を乱す犯罪」である。民主団体、労組、サークル、学生団体、マスコミ、政党などがスパイ活動の主要な対象になる。とくに、がんばっている団体や政党は、権力者の目からみれば犯罪者の根城であるから、スパイ活動に力を入れる。

犯罪が行われていないのに取り締まるということは、具体的行為がないのであるから、人間の思想に目を向ける。国家の目からみて悪い思想を持つこと自体が犯罪の温床と見られる。いい思想と悪い思想の区別の基準は国家権力が握る。国家権力はいいと思う思想を国民におしつけ、悪い思想を犯罪として取り締まる(※)。

※ジャーナリストの青木理さんは次のように指摘する。「話し合いや共謀などを警察が取り締まるためには、日常的に、特定の団体、特定の個人を徹底して監視しておかなければ摘発などできない。その判断は当局に委ねられていて、警察に『怪しい』『危険だ』と睨まれたら、それだけで監視の対象になりかねない。」「各種の市民団体や政治団体などへ広範に広がる」(「監視社会をつくり出す共謀罪は葬り去るしかない」『前衛』 946、2017年4月1日)

(5)罰金を払わなければ脱税犯(通告処分)
国犯法14条は「通告処分」を規定している。つまり、国税局長又は税務署長は、間接国税に関する犯則事件の調査により、犯則の心証を得たときは、その理由を明示し、罰金若しくは科料に相当する金額、没収品に該当する物品、徴収金に相当する金額及び書類送達並びに差押物件の運搬、保管に要した費用を指定の場所に納付すべき旨を通告しなければならない(同条1項)。この通告処分について、津田實・法務省大臣官房・司法法制調査部長は次のように解説(概要)をしている(前掲『国税犯則取締法講義』)。

通告処分は行政処分であり、犯則者との「私和」(引用者注:当事者双方が表沙汰にせず、話し合いで和解すること)である。すなわち、罰金や没収品の納付を犯則者に通知するのであって、罰金や没収品の納付を命ずるものでない。納付するか否かは自由である。納付しなければ脱税犯として告発するだけである。

通告処分は罰金等(罰金相当額)を課す処分であり、払ったら再び審理されない(一事不再理、16条)。つまり、通告処分は、「間接国税」に関する犯則事件について定めている手続である。犯則者が,通告を履行したときは,起訴されない(16条)。裁判を受けないで、刑罰が科される。犯則者が通告を履行しないときは,処分庁は告発する(17条)。通告処分制度は、税務行政庁の公権力の行使に関して不服があっても、訴訟を認めないのだから、納税者の裁判を受ける権利を奪うものである(憲法32条違反)。

国犯法施行規則1条は、国犯法における間接国税は次の国税であると規定をしている。

消費税法47条2項に規定する課税貨物に課す消費税※
※消費税は、 国内取引と 輸入取引に課される。上記は輸入取引に課される消費税のことである。輸入取引の納税者は、外国貨物を保税地域(関税の賦課を留保したまま外国貨物の蔵置・加工・展示などができる場所)から引き取る者である。

酒税 たばこ税 揮発油税 地方揮発油税 石油ガス税 石油石炭税

この国税犯則取締法施行規則は財務省令である。国会で決めなくても消費税を間接国税に入れれば、消費税の通告処分が可能となる。筆者の経験では旧物品税違反で零細事業者に3千万円の罰金を払えという通告処分の例があった。

(6)国税犯則調査手続の性格
裁判例は、国税犯則調査手続は一種の行政手続であって刑事手続(司法手続)でないから、収税官吏の差押処分に対する不服申立ては、行政事件訴訟法に定める訴訟によるべきで、刑事訴訟法430条の準抗告※の規定を準用すべきでないとする判決例がある(最〈大〉決昭44.12.3)。しかし、国税犯則調査手続は、形式的には行政手続であるとしても、実質的には、脱税犯処罰を目的とする犯罪捜査である。

※刑事訴訟法上、勾留・保釈・押収などの裁判や検察官・司法警察職員による一定の処分について、裁判所にたいしてその取り消しまたは変更を求めること。
4. 改定通則法とのたたかい

税務行政庁と納税者との間の法律関係について、「租税権力関係説」と「租税債務関係説」の対立がある。 は国家の財政権の行使は、一方的に行うもので、納税義務は税務行政庁の賦課処分によって発生し、履行されなければ、行政の強制執行・租税処罰によって実現される支配・服従の関係であるとする。
は、租税債務は、法律が定める課税要件が充足された時に成立するとする。

行政が「法による行政」(封建領主の支配否定)である以上、法とは、近代的意味における法、すなわち権利義務の形態を意味する。行政権力と私たち国民の関係が権利義務関係であるということは、相互の争いが、当事者のいずれからも独立した第三者、すなわち司法裁判所によって解決されるべきであるという要請を当然に前提としている。なぜなら、争いの解決が一方当事者の意思によって強制されるなら、そのような関係は、法律関係ではない。したがって、税法(行政法)が法であるためには、いかに特殊性があるからといって、権利義務関係の原則をおかしてはならない。

法律や条約の制定は国会にまかせておけばよい、と考えるなら、わたくしたち国民は、立法に「静観」し、自分たちで行動するする必要はない。この場合、国民の意思の表現は選挙権の行使につきる。これは立法過程で「静観」し、悪法をつくった代議士を今度の選挙で支持しない、という対応である。つまり、「事後処置」である。もちろん、立法と選挙の関係が密接につながっていることは民主主義にとって大切である。

しかし、民意を政治に反映させるための投票は、民主主義の最低の要請であり、それが最高なものであるわけでなく、ましてすべてあるわけではない。少なくとも国民主権のもとで、民意が選挙で政治に反映することは、望ましい。けれど、さらに望ましいのは、選挙以外のあらゆるときに、あらゆる形をとって、敏感かつ的確に反映することである。選挙権の行使を最低の基準として、それ以外の民意の反映の度合いが高ければ高いほど、その国の民主主義は健全となる。だから、選挙による民意の反映は間違いではない。のみならずこの最低の指標さえ確立していない今日の日本では、この考えを主張することに意味はある。けれど、国民はいっそう民主主義政治を発展させるために選挙権の行使という最低の要請に満足せず、すすんでその他の方法による民意の反映に積極的に努力する必要がある。悪法が制定された後には権力の手足をできるだけしばる解釈を主張することになる。

(うらの・ひろあき)

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