論文

特集 秋のシンポジウム > マイナンバー制度の危険性
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マイナンバー(社会保障・税番号)制度の危険な企み
東京会清水 和雄
いよいよ出てきた政府の本音

消費税率を8%へ増税して以降、個人消費は大きく落ち込み、実質GDP がマイナス成長に陥る中、10%への増税に向け、公明党が軽減税率を主張するのを利用して、財務省はいきなり「マイナンバーカードを利用して食料品を購入すればポイントを付与して年間4,000円を限度に還付する」などという案を発表した。麻生財務相は「複数(税率)にすることはめんどくさい。それをめんどくさくなくする」「カードを持ちたくなければ持って行かないでいい。その代わりその分の減税はないということだけ」などと言い放った。

その後、「4,000円が低すぎる。小規模な商店ではカード読み取り装置の購入も大きな負担だ」との声に、限度額を5,000円に引き上げる、カード読み取り機を支給する、などの案も出てきた。しかしその後も各方面から痛烈な批判を浴び、最近では「こだわるつもりは全くない」「アイデアとして提案したので問題があるなら考えればいい」と、トーンダウンしてきた。

この案は唐突に出てきたかの様な印象を受けるが、決して思いつきで出てきたものではない。財務省はグリーンカード導入失敗の後、国民番号制導入を虎視眈々と狙ってきた。法案の成立に成功した今、国民がマイナンバーカードを利用せざるを得ない状況に持って行くことが現在の最大の課題である。増税分を還元するのであれば、以前何度も行われた様に、確定申告や年末調整時に、一律控除を行えば良いだけの事である。あるいは一律支給も行われている。

食料品に対する消費税だからと言ってみても、仮に5,000円分だとして、年間25万円の食費で最高額に達してしまうのである。月々僅か2万円ちょっと、1日にすれば700円弱の食費で最高限度に達してしまうのなら、何もいちいちマイナンバーカードで食費のみを分別する必要はない筈である。これを敢えてカードの利用に拘るところに、マイナンバーの最大の目的が隠されている。
一番危険な事は情報漏洩などではない
これまで共通番号は「所得の把握で公平な課税と社会保障の充実のため」、ということしか言われて来なかった。マスコミも政府の発表する情報を垂れ流すのみで、「課税の公平のために番号制大賛成」の論調であった。共通番号制度の危険性については情報漏洩や成りすましの危険がある、などという程度しか検証されて来なかったし、いまだにそれ以上の批判は殆ど無い。

しかし、この共通番号制度の本質的な危険性はそんなところではない。共通番号制度導入の最大の目的であり、最も危険なことは、国が個人の消費行動を把握しようとすることである。確かに番号制により所得の把握、資産の把握(既に金融資産に対する番号義務づけが予定されている)が容易になるが、これに加えて消費行動をも把握しようとするのが、最大の目的である。その最初の一歩が食料品に対する減税を理由にしたカードの利用促進である。2年後に検討するという番号の民間利用では、クレジットカードやSuica などにも利用するとのことである。現在何枚も持ち歩いているカードが1枚のカードで済む、こんなに便利なことはない。

マイナンバーカードにはIC チップが埋め込まれているから、いくつものカード情報を登録して、利用するときに選択をすれば良いだけのことである。医療機関の診察券もこれ1枚でOK !カルテ情報も登録できるから、複数の医療機関で診察を受ける場合でも完璧。更に様々なポイントも付与されます!もう、マイナンバーカードを使うっきゃない!そのうち消費者はカードがなければ生活が出来なくなる。そう、これこそが政府の狙う国民共通番号制。何処で、何時、誰が、何をしたか、総て把握しようとすることである。

既に昨年「秘密保護法」が施行された。この法案に向けて国会前で反対の声を上げていた市民に対し、石破氏は「今も議員会館の外では「特定機密保護法絶対阻止!」を叫ぶ大音量が鳴り響いています。(中略)単なる絶叫戦術はテロ行為とその本質においてあまり変わらない手法に思います」と述べている。デモとテロを同じと考えているのである。そしてこの秘密保護法は「テロ防止」が特定秘密となる要件に入っている。今後改憲反対運動などでデモが行われれば、「テロを防止するため」という大義名分により、すべて特定秘密とされ、個人情報(マイナンバーの利用を含む)がどの様に収集され、どのように利用されるのか、全く闇の中に隠されてしまう。
悪い事していないから関係ない?
何を把握されていても、別に人に知られてまずい様なことをしていないから、私には関係ない、と考える人もいるだろう。しかし、何時何処でテロ行為とみなされる行為を行う人物と同じ様な行動パターンに該当するかわからない。何かで一致点があれば徹底的にマークされることとなるかもしれない。また、消費行動とその人物の思想とはビッグデータとして分析され、逆に思想を一定の方向に向かう様に行動をコントロールしようと試みられるであろう。どのような情報を流せばどのように行動するか、どのような思想が形成されるか。このあたりの心理学の研究は、アメリカではかなり進んでいる。既に様々な事が実に巧妙に実行されてきているのも事実だ。

憲法で保障された個人の思想、信条の自由も、本人が自覚していないうちにコントロールされてしまうかもしれない。いや、既にマスコミをコントロールして偏った情報しか流さなくなって来ている状況を見ると、着々と進行していると見た方が良い。
次に来るもの
カードの利用が普及し徹底した頃、カードの亡失、盗難、成りすまし等による事故が起こり、必ず批判が出る事となる。この問題の決定打として、また、大災害の襲来による被災を利用して個人識別の重要性、行方不明者の捜索、あるいは遺体の識別の為という大義名分により、次に来るのがIC チップの生体埋め込みの検討である。これは決してSF の世界だけの話ではない。マイナンバーカードを持っていなければ何も出来なくなる(本人確認の唯一の手段であり、買い物をするにも預金を下ろすにもカードが必要)世の中、しかし、突然やってくる災害時に被災者がカードを持って避難出来るとは限らない。一番確実なのは体内に埋め込んでしまうことだ。GPS機能を持たせれば、行方不明者も即座に捜せる。実は日常でも何処にいるかが即座に判明する。なにかあればすぐに逮捕も出来るのである。こんなに便利で安全な世の中はないかもしれない。

しかし果たしてそれで良いのであろうか。時の政府の考える「国民の命と安全を守る為」なら国民の声を無視しても、憲法違反だろうと平気でする。テロとデモも同一視する。個人情報の取り扱いについて、民間にはペナルティーを課して、多大な出費や労力を押しつける一方、年金情報流出事件に見るように、行政機関では全くでたらめな状況である。

公明党の反対で、現在カード利用の還付方式は宙に浮いた状況となっているが、近いうちに必ず「買い物をするにはカードが必要」「何をするにもカードが必要」な社会にしようとする動きが出てくる。何故ならこれ程IT産業が儲けられるチャンスはない。全国全ての商店にカード読み取り装置を普及させることとなれば、それこそ莫大な金が動く。そして国民一人一人を完全に監視しコントロールすることが出来る。

国民の命や安全より、財界の利益を優先し、自分たちの利権しか考えていない政府に、こんな共通番号制度を与えてしまって良いのだろうか。なんとしても廃止すべく、今立ち上がらなければならないと思う。

(しみず・かずお)

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