論文
> 憲法を活かす - 本当の積極的平和主義とは
>「消費税の基幹税化と、法人実効税率引き下げによる中小法人税制の解体(上)」

分科会報告
「破壊される国民生活と税理士の責務〜消費税批判を中心に〜」の発表をおえて
東京会 佐伯 和雅
1.はじめに

全国研の担当会として臨んだ東京会、その東京会担当の分科会に100名を超える参加を頂いたことに御礼を申し上げます。発表者の人数の多さから内容が多岐に渡るものとなりましたが、消費税の全体像を把握しないことには消費税の抱える問題の「本質」が捉えられないという趣旨から、関連する項目を横断する発表・レジュメ作成をすることとなりました。発表者各人は割り当てられた問題点につき、深度のある研究をして当日の発表に臨みました。

まず始めに、消費税率が引き上げられた場合に家計等へどのような影響があるのかの報告がありました。可処分所得が増加していない現状において、消費税による国民負担増が妥当であるとはいえず、金額の面からしても過重負担であるといえます。国民生活の実態として所得・貯蓄面あるいは日常生活の面を調査したアンケートによれば、前年調査時よりも生活実態が厳しくなっている現状があることが報告されました。また事業者においても、価格として転嫁できている割合は55.8%にとどまっていることも深刻です。
2.消費税の問題点

次いで、消費税の個別的な問題について各発表者から報告がされました。

 【消費税とは何か】
わが国の消費税は、ヨーロッパ各国で採用されている付加価値税と同様の多段階累積排除型の課税ベースの広い間接税として設計されており、赤字であっても転嫁に失敗すればその分は事業者が負担しなければならず、事業そのものの存続に影響を与える過酷な税金となっている。それにもかかわらず、歳入側においてはスーパー基幹税の扱いとしていることが指摘されました。

 【消費税は間接税であるか直接税であるか】
一般的に消費税は「間接税である」との指摘がされているが、本当に間接税なのだろうか。消費税法のどこにも「転嫁」という文言はなく、担税者が消費者であるとした規定も存在しないこと、加えて消費税は事業者が預かっているものでないとした東京地裁の判決「消費税は対価の一部としての性格しか有しない」に触れ、消費税は一概に間接税とは言い切れないとした報告がされました。なお、消費税が直接税であるとすれば、還付消費税はGATT 協定に違反することになります。

 【生活費への転嫁の違憲性】
以上より、現実的には消費税は直接税として機能しています。一般的に、所得に対する生活費支出額の割合は、所得の増加とともに低下することから、その意味において強い逆進性を有する消費税は応能負担原則に反する税制であるといえます。消費税率が上昇し「広く・厚く」課税する段階に来たからこそ、逆進性の緩和・解消を行う施策が問題として提起されており、その代表的なものが「軽減税率」・「複数税率」です。消費税は生活を脅かす税であり、税率が上がれば上がるほど憲法25条を阻害するものとなる危険性のある税制です。

 【税収構造はどう変化しその問題点は・「滞納」はどうなるか】
消費税が導入されてから、国の税収構造は大きく変化しました。消費税収は景気による変動が小さいため、徴収側にとっては基幹税として扱うことに都合が良い。8%に増税したことによって、所得税を抜いて税収の中で最も高い割合を占めることとなります。また、平成25年の新規発生滞納額(5,477億円)のうち消費税が51.4%(2,814億円)を占めている。税率が8%となり、今後10%へと上がれば、この割合が当然増えていくであろう。発表者は平成27年度には新規発生滞納額のうち消費税が75%近くを占めるのではないかと試算しました。過去の統計から推認すると、発表者の予想はそれほど飛躍した数字であるとは思えません。

 【軽減税率の問題点・輸出免税の問題点】】
軽減税率の問題については、事業者コスト並びに税務行政コストが増大すること、高額所得者にもメリットが及ぶこと、軽減税率の導入による減収を標準税率の引き上げによって賄われるのではないかとの懸念、軽減税率が政治利権化すること及びインボイス方式の導入により免税業者が取引から排除されることなどが図表を用いて説明されました。また、輸出免税の問題については国内間取引並びに国際間取引に際し、消費税が取引の公正さを欠く税制となってしまっていることが、数字を用いて具体的に示されました。

さらに、複数税率を採用した場合には、簡易課税ではみなし仕入の区分が多くなり、事務負担が多くなるなどの問題点も挙げられました。

消費税が付加価値税(直接税)であるかどうかについて、ここでも再検証が行われました。例えば、4月の消費増税にあたり大手牛丼チェーン店3社の価格が、それまで一律280円の同価格であったのを、値下げ、据え置き、値上げと三者三様の価格政策が取られました。このことから、消費税の本質が付加価値税であることが紹介されました。れほど飛躍した数字であるとは思えません。

 【「非課税」問題】
非課税問題については、医療介護問題を中心に発表がされました。2014年の診療報酬改定が、消費税を加味すると実質マイナス改定になったことに触れ、これに併せて医療費の窓口負担が増加したことから、消費税の負担が患者負担となっていることが報告されました。また、発表者の介護福祉士であった経験に触れ、医療・介護の現場では、消費税の非課税問題が事業者の経営を圧迫し、これに伴いそこで働く労働者への賃金分配が依然として低調である現実があることが報告されました。

 【わが国における福祉と負担の検討欧州型との比較
諸外国との社会保障と消費税の比較として、スウェーデン並びにデンマークの制度について発表がありました。日本とは国土・都市人口割合などが異なり、また国民的合意を得られていない消費税を中心とする「連帯と承認」に基づく社会保障制度の設計は日本では馴染まないため、欧州型の福祉国家像は目指せない。北野弘久名誉教授のいう「消費税に限らず一般税及び社会保障料(税)は全て福祉国家の成立を支える新福祉目的税」であるといった理論を再確認し、現状の日本において依然として続いている貧困率上昇の問題を例に挙げ、消費税などのフラット税制による再分配機能の低下を指摘しました。これらを踏まえ、わが国は少子高齢化を受け入れながら、その想定の範囲内で社会保障給付を維持し、適正な所得課税を中心とする応能負担原則に基づく高負担を目指すべきであるとの報告がされました。
3.税理士の責務・役割について

われわれが所属する東京税理士会ならびに日本税理士会連合会は、消費税の複数税率導入に反対している。増税推進の動きは、大手新聞社を通じ世論形成を図ろうとしている。また、年金財源の株式市場への導入により株価を引き上げようとするなど、消費税増税の判断の一つとしている経済指標の向上に躍起になっている。しかし、消費税は国民生活を直接冷やすだけでなく、歴史的にも軍事大国へ繋がることにもなるから、ただの税制問題にとどまるものではないとする北野名誉教授の指摘を踏まえて、消費税増税の危険性に対する注意が一層必要であることが説明されました(消費税反対の運動の歴史については第50回東京浅草全国研究集会記念誌掲載、湖東京至会員の「大型間接税導入反対の歴史」が参考図書として挙げられました)。
4.会場からの発言・討論

会場からは多くの発言や意見がありました。貴重な意見が多く、今後の研究研磨のため、消費税に係る部分について出来る限り以下に掲載することにしました。

 消費税は欠陥税制であるのだから消費税は廃止を。戦費調達の財源となることは間違いない。

 消費税を無くす、あるいは消費税率を上げないとすれば代替財源が必要である。

 個別物品税は代替可能性も備えており、消費税の廃止は可能だ。現在のIT 化がそれを後押ししてくれる。

 消費税を国際課税としてしまえば良い。

 食料品に対し軽減税率を導入すると高額所得者にもその恩恵が及ぶといった点並びに軽減税率を導入するとその減収分を標準税率の引き上げで賄うといった点は、軽減税率の批判方法としていかがなものか。

 軽減税率は必要ではないだろうか。

 少し条文を変えて輸出を非課税にし、あるいは医療は免税(ゼロ税率)にすれば消費税は良い税金となるのか。そういう問題ではなく、廃止すべきだ。

 北欧は相当古くから社会保障に対して国民が承認し、手厚い社会保障制度を実現している。学べるところもあるのではないか。

 分離課税を廃止して、適正な応能負担を実現する必要がある。

 消費税を増税して、それと併せて法人税を減税している。大企業の内部留保は年々増加している。これを吐き出させる方法を考えるべきだ。

11 「転嫁」という言葉について正しく理解できているのか。「転嫁」の実態を研究し、探っていく必要があるのではないか。

12 事業者自身が消費税は直接税であると認識しなければ、消費税の問題は解消しないのではないか。

13 消費税が景気を悪くしている実態こそを明らかにする必要があるのではないか。

14 税理士の責務として、具体的にどのように消費税増税に反対していくのか、反対する活動を継続していく力が弱くなってきているように感じている。税理士が積極的に活動していくべきだ。

15 日本の針路に関わる問題である。本腰を入れて反対するべきである。

16 研究としてはよかった。発展として消費税の有する両面性・性格を抑えていく必要がある。最終的には直接税であるという理論の整理や、隠れた補助金である側面をもっと明らかにしていくと良いのではないか。

17 現実を見据えれば、軽減税率についても研究していく必要があるのではないか。

18 社会保険料などもそうだが、生活実態に合わない滞納問題が生じている。注視していく必要がある。

上記のように多くの意見を頂戴しました。また、これ以外にも貴重な意見がありましたが、字数の関係上割愛させていただきました、ご容赦ください。
5.むすびにかえて

発表者側としては、質問の中心は軽減税率と輸出戻し税に集中するであろうとの予測を立てていました。しかしこれに反して、会場から寄せられた意見の多くは消費税の根本的な欠陥を指摘するものが多く、改めて消費税の本質的な問題点を浮き彫りさせるものでした。消費税は生活最低限にまで課税を行う過酷な税金であり、わが国では消費税を社会保障に全額充てるといった理屈も成立しないことが常態となっています。根拠のない消費増税をストップさせ、消費税制を縮小・廃止させられるような具体的代案の提示を行えるように研究を進めていく必要性を感じさせられた発表会となりました。参加していただいた会員の皆様並びに発表者のみなさま、ありがとうございました。

最後に会場からの質問などについて私見ではありますが、いくつかについての補足・回答を寄せたいと思います。消費税は最終的に廃止を目指すことを前提に検討いただければ幸いです。

 輸出非課税とすれば、いわゆる輸出戻し税を受ける輸出大企業が、消費税増税論を現状維持するだろうか、についてですが、これについては仮に輸出戻し税を受けることができなくなれば、輸出大企業からの消費増税の声は相当小さくなるであろうと考えられます。従って、消費税の制度を縮小させる方向へ向かわせることへの影響は、小さくないであろうと考えられます。

 医療や介護の非課税制度をゼロ税率へと変更した場合に、現在納付している消費税分が労働賃金に分配されるのかの問題についてですが、短期的には難しい問題であると考えます。介護事業者については経営自体が逼迫している事業所も少なくないため、当面は事業主が消費税分のキャッシュを吸収する可能性が高いのではないでしょうか。これは中小企業全体に言えることですが、トリクルダウン(滴り落ちる)の理論が小規模な事業者にもあてはまるという現実はないということです。このような状況下においては短期的に労働者へ賃金としての分配が行われることは難しいのではないでしょうか。

とはいえ、特に介護従事者の賃金の低さは他業種と比較しても異常に低いことは、分科会の報告にあったとおりです。消費増税されれば、今まで以上に賃金が抑制される可能性も否定できません。長期的な賃金上昇を見据える意味でも、早急に「ゼロ税率導入を」と訴え続けることは必要でしょう。

 個別物品税の導入についてですが、個人的には賛成です。しかし、現在の消費税収の全額を補填するには至りませんので、完全な代替税にはなり得ませんが、消費税収すべてを補填できる個別の税目は存在していませんから、代替税の一翼を担うといった意味では有力な税目の一つになると考えます。また、何に対して物品税を課していくかの議論が生ずると思われる方もいると思いますが、これは軽減税率や非課税問題が内包する問題とさほど変わりがありません。一般消費税導入以前に、わが国で採用されていた歴史を考えれば、導入はそれほど難しい問題ではないのかもしれません。

(さえき・かずまさ)

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