論文

特集  第46回千葉全国研究集会
分科会テキスト
> 大嶋訴訟判決から始める判例研究(東京会)
> 会計事務所の悩み解決(東京会)
> 日本の法人税率は本当に高いのか?(大阪会)
> 税の歴史とその時々の国家の成り立ち(神戸会)
> 最強の税務調査対策(関信会)
> 給付付き税額控除と納税者番号制度を考える(埼玉会)
> 税理士法、いま何を問うべきか(千葉会)
> 公開事例研究 - 納税者の権利と課税権力のはざ間に立って
(中国会)

公開事例研究
- 納税者の権利と課税権力のはざ間に立って -
中国税経新人会


はじめに

中国会として、はじめて分科会を持つことになりました。中国会を発足させて早6年が経過しました。この間、ほぼ毎月事例検討会を実施し、各会員が受けた相談や税務調査などの体験の中で、疑問に思う事例、悩んだ事例、成功事例などなど出し合って研鑽を深めてきました。毎回3時間程度ですが、時間一杯次々と事例には事欠かない状況でした。

分科会を担当しようと提案してみたものの、他の地域会のように研究テーマを決めて報告する力量には甚だ自信がなく、論議の結果、日頃している事例検討をみんなでやろうということになりました。
副題とした、「納税者の権利と課税権力のはざ間に立って」とは、日常の私たち税理士の思いを率直に表したものです。納税者の立場に立って仕事がしたい。一つ一つの税務判断を要する場合にも納税者の権利を守る立場から考えたいとの思いは強くあります。

その一方で、現実的には、課税庁の通達が気になり、保守的になり、課税庁と争っても勝てないと諦めて迎合してしまうこともたびたびです。
事例検討を通じて、参加されたみなさんと税理士としての信念や思いを交流ができたら幸いです。
事例は、私たちが今まで検討してきた中から、次の視点で選びました。

一般的で多くの税理士の方が検討されたことがあると思われる事例。
課税庁の見解がある程度わかるもので、それに対して納得できない事例。
いくつかの見解が想定される事例。

以上をふまえて次の5つの事例にしました。

事例1 廃屋に関する相続税評価について
事例2 役員貸付金にかかる利息について
事例3 事業所得者である税理士のスーツは必要経費になるのか?
事例4 廃業した個人事業者が事業用資産を譲渡等した場合の消費税課税は?
事例5 給与所得と事業所得の判断について

はじめての取組みなので、どうなるか。活発な論議で時間切れとなるか。意見もあまり出ず、手持ち無沙汰になるのか。与えられた時間内で、どれぐらい事例検討ができるのかまったく見当がつきません。運営の不十分さがでるかもしれませんが、ご了承ください。参加者のみなさんの積極的な発言でスムーズに運営されることを願うのみです。時間不足になった場合は、ご意見を中国会までいただければと思います。

I 事例1 廃屋に関する相続税評価について

本事例の土地の評価、建物の評価、取り毀し費用の控除を、相続税の評価にあたってどのような方法でもって実現することが出来るか。

事例

市街地に存する宅地の上に使用不能の鉄筋コンクリート四階建ての築50年の元診療所が存する。
宅地は、500m²、路線価4,000万円
建物は、市の固定資産評価1,200万円
建物の取り毀し費用は、概算1,000万円

相続税評価にあたり、この宅地、建物の評価、及び建物の取り毀し費用の債務控除を如何にするかについて,評価通達に見当たらなかったので不動産鑑定士の鑑定評価によった。鑑定の要点は次の観点を基本に評価している。

市街地に存する物件につき、土地の再有効活用を想定して評価する。
建物の価値は、ゼロとする。
土地の更地評価額から、建物の取り壊し費用相当額を差し引いて算出する。
税務調査において、税務署の見解が次のとおり示された。
評価は通達通りにすべきである。
即ち、土地は路線価で、建物は市の評価で、建物の取り毀し費用は認めない。
その結果は、税務署の指摘通りに修正申告をした。

検討資料

相続税法第22条 ...相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は,当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。

評価基本通達
1.(2)時価の意義
財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額(加筆 客観的要素が考慮され、主観的要素は排除される)をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による。

(3)財産の評価
財産の評価にあたっては、その財産の価額に影響を及ぼすべき全ての事情を考慮する。

6.この通達の定めにより難い場合の評価
この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。

「解説」
評価基本通達に定める評価方法を画一的に適用した場合には、適正な時価評価が求められず、その評価額が不適切なものとなり、著しく課税の公平を欠く場合も生じることが考えられる。このため、本項においては、そのような場合には個々の財産の態様に応じた適正な時価評価が行えるよう措置している。
11. < 宅地の評価は >、原則として、市街地的形態を形成する地域にある宅地は、路線価方式によって行う。

(私見)
宅地は、更地であるとした場合の価額を算出するのであるから、地上の物件を考慮する余地はないと言える。
但し、通達には見当たらないが、資産税の本には、「利用状況などに応じた評価額の修正」
(10)利用価値の著しく低下している宅地として、例示がされている。(後記)
< 家屋の評価 >
89.家屋の評価は、その家屋の固定資産評価額に別表1に定める倍率を乗じて計算した金額によって評価する。

(私見)
実態は、廃屋などもあり個々にその価値は異なり、固定資産評価額と乖離している場合が散見される。
しかし、通達では、これらよくある実務上の評価方法が全く見当たらない。
固定資産評価は、実取引価額ではなく、理論上の価額であり、しかも幾ら古くなっても一定額以上の価額を維持している。
そこに、相続税評価方法が、固定資産評価額によっているところに大きなギャップが起こっていると言える。

< 債務控除(建物の取り毀し費用)>
相法13  ...被相続人の債務で相続開始の際、現に存するものを債務控除する。
相法14 控除すべき債務は、確実と認められるものに限る。
相基通14-1(確実な債務)

債務が確実なものであるかどうかは、必ずしも書面の証拠があることを要しない。
なお、債務の金額が確定していなくても当該債務の存在が確実と認められるものについては、相続開始時の現況によって確実と認められる範囲の金額だけを控除する。

解説
確実と認められる債務とは、債務の存在及び債権者による請求その他により債務者につきその債務の履行が義務づけられている債務と解される。が、この確実であるかどうかの判定をどのように行うかについての一般的な取扱を定めたのが、14-1の通達である。

(私見)
取り毀し費用は、相続開始時点において未だ発生していないので、控除できない、と言うことになる。

< 土壌汚染地の評価 >
汚染が無いものとした土地の価額から次のものを控除する。
浄化・改善費用に相当する金額
使用収益制限よる減価に相当する金額
心理的要因による減価に相当する金額
利用価値の著しく低下している宅地
普通住宅地にある宅地で、道路より高い位置にある宅地,地盤に著しい凸凹がある宅地等、利用価値が低下していると認められる部分の面積に応じて10%控除する。

< 土地の鑑定評価に関する先例 >
請求人は、路線価には相続開始日までの地価下落が反映されておらず、実際の取引においても路線価では売却できないこと等から鑑定評価により評価すべきと主張するが、1月1日から相続開始日までの間に20%以上の下落あったとは認められないから路線価で評価すべきである。(H16.12. 3裁決、裁決事例集No.68 p170)

不動産鑑定は、一般的には客観的な根拠を有するものとして扱われるべきであり、その結果が通達評価額を下回るときはこれが時価にあたるが、採用した評価方法に高い合理性が必要である。として納税者の請求を認容した。(名古屋地裁平成16年8月30日判決、平15(行ウ)10号)(確定)

家屋の評価に関する先例
固定資産税評価額は、時価とはいえないという主張に対する審判所の判断(H18.12. 4裁決、裁決事例集No.不詳)

II 事例2 役員貸付金にかかる利息について

同族法人においては、申告書内訳書によって、役員貸付金が課税当局によって把握されます。役員に対する多額な貸付金がある場合、その利息相当額が問題となります。貸付金の発生原因を見れば、設立当初からのものや、交際費等からの振替えたものが多く見受けられます。

設立当初からのものには、営業権になるものや設立費用になるものもあり、又交際費等から振替えたものの中には、その会社の為にしたことであり、代表者に対する貸付金として処理したことから、仕方ないことであるが理解しがたいところもあります。

また、形式上は法人が役員に対して貸付けを行い、通常の利息相当額を受領していない場合は、その役員に対して、経済的利益を供与したとみるのが妥当と考えます。

法人税担当者は、法人の雑収入として修正申告を迫ってきます。
法人税基本通達9-2-9 経済的利益の供与
所得税法36条ー1
所得税法基本通達36-49利息相当額の評価

III 事例3 事業所得者である税理士のスーツは必要経費になるのか?

(1)問題の所在

問題の所在は 所法37条の後段「その年おける販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」と、 所法45条1でいう「必要経費に算入しない」ものの規定で、所令96条に定める「家事上の経費に関連する経費の主たる部分が〜事業所得〜を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費」である。一体どんなものが「必要経費」に該当し、どんなものが「必要経費」に該当しないのかが極めて不明瞭なことにある。

(2)法人税法と所得税法との比較

費用には売上原価のように収入に直接対応させる費用(個別対応)と販売費、一般管理費のようにその年分の費用(期間対応)がある。
個別対応部分は、所法37条と法法22条言い回しの違いがあれこそ、ほぼ同義である。
期間対応部分は法法22条3項二は「当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用」、所法37条の後段は「その年おける販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」とほぼ同義である。ただ、法人税法は、「その他の費用」と販売費、一般管理費を例示して、単に「費用」であれば損金の額に算入されるのに対して、所得税法では「その他費用」は「生ずべき業務に生じたこと」に限定されている。

文理解釈上は、販売費、一般管理費と並列である「業務について生じた費用」は、個別対応である「これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該収入金額を得るために直接に要した費用の額」に該当しなくても、当然に「必要経費」になること読み取れる。

ところが、判決や裁決には「期間対応」である後段部分に、前段部分である業務との「直接対応」を「必要経費」の要件に解しているものが散見される。条文で「直接性」を表した部分は「青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者に係る家事上の経費に関連する経費のうち、取引の記録等に基づいて、〜事業所得〜を生ずべき業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分の金額に相当する経費(所令96条2項)」と明記している部分があるが、ところが同1項は「家事上の経費に関連する経費の主たる部分が〜事業所得〜を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費」となっており「直接」という文言はない。

このように、所得税法において必要な場合には「直接」という文言を使っているので所法37条の後段に「直接」という文言がない限り、判決や裁決で多用されている「直接対応」を当てはめていることが、必要経費の範囲を狭めているし、納税者もその代理人である税理士もそれにとらわれているのではないだろうか。

(3)家事費及び家事関連費の不確定概念

さて同様に「必要経費」範囲を狭めている原因に、不確定概念としての「家事上の経費」である。所法45条において、「家事上の経費及びこれらに関連する経費で政令で定めるもの」は必要経費に算入しない、と定めているが、その定義をしていない。あえて、「していない」のか「できない」のかもしれない。解説書によれば「個人事業者は、日常生活において事業による所得の稼得活動のみならず、所得の処分として消費活動をも行っている。この消費活動に要する支出」を家事上の経費として説明している。抽象的で、具体的に何が家事費なのかさっぱりわからない。
< 略 >
一方、所得税法は、「その年中に事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする。」とし、その必要経費には「家事上の経費及びこれらに関連する経費で政令で定めるもの以外は必要経費に算入しない。」という規定をとっている。

換言すれば、個人事業者の支出のうち、「必要経費」に算入できないものが「家事費」であり、逆に「家事費」にならないものが「必要経費」といった隘路に入ってしまう。

尚、家事費の概念に一番近いものとして「標準生計費」が考えられるが、これとて所得税法でいっている「家事費」とは言い切れない。価値観の多様性がいわれて久しいが所得間の格差が大きく広がり、またIT 技術等の向上でますますその判断が難しくなっている昨今である。

(4)立法面と税務執行面の間ざまに立って

< 略 >
さて、税務調査の現場では、事業所得者「性悪説」にたった調査官が、自分たちの価値観でもって形式的に「家事費」を決めつけ、修正申告を慫慂する場面に遭遇する。彼らを納得させるほどの事業関連性を担保するための疎明資料を作成することは並大抵のことではないし、そもそも不可能なものの方が多い。では、どうして「事業関連性」を主張するのか事例で紹介してみたい。具体的事例は、実際にあったものと想定されるものを織り込んでいる。

(5)具体的事例の検討

事業者である税理士のスーツ、ネクタイ、鞄、靴
抗がん剤治療のためスキンヘッドになった小児科医のかつら
歯科医の老眼鏡
カリスマ美容師の装飾品
クラブのママのスーツ
徹夜した舞台大道具の栄養ドリンク
デザイン専門学校の同窓会費
建設業者の購入したゴルフセット
税理士が同業者と行ったハイキングの費用

(6)税理士としての対応

具体的事例で考察したように、問題は事実認定の問題、つまりその支出の目的、性格、内容などがきちっと明示できるかどうかにかかっていると思われる。
われわれは、反射的にスーツ、かつら、老眼鏡、装飾品、栄養ドリンク、同窓会費、ゴルフセット、ハイキングなどの言葉だけで、即「家事費」として、店主勘定(事業主貸し)としていないだろうか。

それぞれの支出には、それぞれの背景がある。その背景を税理士がどう考え、必要経費性があるものにたいして、どのようにすれば税務上のトラブルを防ぐことができるかを積極的に考える必要性があるのではないだろうか。

判例や裁決には「客観的」にとか「社会通念上」とかの文言が並んで、多くの場合、納税者の必要経費の範囲を狭めている。税務調査の現場でもそうである。しかし、申告納税制度においての税務判断は「客観的事実」を知っているのは納税者でありその代理人である税理士しか「第一義的」にできないのではないであろうか。

課税庁側に「客観性」や「社会通念」があり、納税者やその代理人である税理士の判断が「主観的」であり、「社会通念」がないとしたら、どこに「真実」があるのであろうか。

IV 事例4 廃業した個人事業者が事業用資産を譲渡等した場合の課税は?

自営業の土木業者が高齢なために平成20年12月末で廃業した。資産は簿価が15万円の普通車と300万円のショベルであった。青色申告者であり、消費税の簡易課税の申告をしていた。平成21年の1月に税務署に、事業廃止届出書、青色申告の取り止めの申請書及び消費税の事業廃止届出書を提出した。

その方から、22年の5月になって、「漸くショベルを買ってくれる同業者がいるのだけど消費税はどうなるのか。」との相談を受けた。

見解1、棚卸資産と同様、事業用資産を譲渡した場合は、課税売上になる。
事業用資産を処分するまでは、事業が継続していると考える。

見解2、消費税法4条4項では、「個人事業者が棚卸資産又は棚卸資産以外の資産で事業の用に供していたものを家事のために消費し、又は使用した場合における当該消費又は使用」は「事業として対価を得て行われた資産の譲渡とみなす。」と規定されている。これ以外にみなし規定はない。廃業イコール家事使用に該当するとみなす根拠はどこにもない。よって、課税売上にはならない。

見解3、消費税は、第4条1項において「国内において、事業者が事業として行った資産の譲渡等に消費税を課する」と規定している。これが大原則である。すでに、事業を廃止して1年半近く経ち、消費税の事業廃止届けも提出しており、21年度の所得税申告は年金収入のみであったのだから、そもそも事業者では無い。事業者でない者が何を売ろうが消費税は課税されてはならない。

関連、個人事業者が法人成りした場合で、その時点で、事業用資産を法人に譲渡せず低額で賃貸して、2年後に譲渡する方法に問題はないか。

V 事例5 給与所得と事業所得の判断について

事業者が、相手に支払った金品が、雇用関係に基づく給与に該当するか、請負関係に基づく外注費に該当するかの判断は常々難しい判断をようする問題です。
この問題は、支払う側と受取る側との両方の問題があります。

支払う事業者にとって、外注費として損金処理していた場合に、課税当局から給与の支払いとみなされると、源泉徴収の徴収もれの問題とともに、消費税の一般課税の場合は、課税仕入の否認になり多額の修正になる性格をもっています。

一方受取る側としても、支払い者が支払調書を発行していた場合、事業者として所得税の申告をするように言われ、最近無申告者として決定を受けている事例があります。

消費税法基本通達1ー1ー1や昨年12月17日に国税庁が発表した「大工、左官、とび職等の受ける報酬に係る所得税の取扱いについて」においての事業と給与の新たな判断基準を見ても、実態に即した判断とは必ずしも言えない判断が難しい場合が多々あります。

昨今、雇用と請負だけでなく、派遣の問題もあり偽装請負、偽装派遣等を含めると益々混乱してしまいます。
小手先の対応でなく、この問題を税理士としてはどのような視点で考え対応すべきか論議していただきたいと思います。

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