論文

  > 「共謀罪」と税理士
活かそう憲法
税理士界にも「九条の会」できる
東京会久保田幸夫  

1、はじめに

2006年6月1日、全郵政会館において81人の参加者のもとで「税理士九条の会」の結成総会が開かれました。呼びかけ人を代表して阿部国博が開会のあいさつをしたあと、会結成にいたるまでの経過を私が、会則説明を豊田栄一郎が、役員紹介を乾川日出夫が、大阪と栃木の有志のメッセイジを司会者の小澤啓一が紹介しました。会則について会場から若干の意見が出て、一部を手直しすることで承認。ついで自由法曹団の団長坂本修氏(弁護士)が、“壊憲か”“活憲か”−岐路に立つ日本、決めるのは私たち、と題して熱心な講演をされ、会場は大いに盛り上がりました。閉会は呼びかけ人代表のひとり、市吉澄枝がおこない、税理士業界にもやっと憲法九条を護る礎ができました。

(総会のときの下書き原稿に、一部加筆して報告に変えさせていただきます。なお文中の敬称は略させていただきましだ。)

2、呼びかけ人を募る

九人の識者(井上ひさし、梅原猛、大江健三郎、奥平康弘、小田実、加藤周一、澤地久枝、鶴見俊輔、三木睦子)が「九条アピ−ル」を出したのは2004年6月10日のことです。忍び寄る改憲勢力に対して、日本と世界の平和のために、私たちひとりひとりができるあらゆる努力を始めようと訴えたのです。このアピ−ルにたくさんの地域、職場、学園の人たちが応えました。その数は4,770にもなろうとしています(6月10日現在では5,174)。

私は当然、税理士業界からもそうした声がすばやく起きるであろうと思っていましたし、そうしたら何らかのお役に立ちたいと考えておりました。しかし現実にはなかなかそうした動きが具体化しません。それぞれが忙しい仕事をお持ちですし、1万8千人いる東京税理士会会員に訴えかけようというのですから、覚悟が必要だと理解ができます。で、いつまでも人頼みではいけませんので、2005年9月に何人かの親しい人に呼びかけて、準備会の準備会を開いたわけです。以後10月18日、11月7日、28日、12月20日と精力的に準備会を持ちました。まず東京の税理士全体に呼びかけるにはどうすべきか、名称をどうするか、結成準備会の代表をどなたにお願いするか、事務局をどこにおくか、財政はどうするか、など具体化することはたくさんありました。

日本国憲法、なかんずく9条を護るという一点で、手をつなぎ改憲の企てを阻むための幅広い運動ですから、できるだけ多くの税理士に賛同していただかなければなりません。特定の政党支持者のみに頼るのではなく、いわゆる無党派、政治にはあまり関心をもたれない方を含めて、賛成していただく必要があります。戦前の軍隊経験者、あるいは戦争体験者からは当時の悲惨な実情を改めて話してもらいたいし、若手の人には“平和は当たり前”ではなく、ひとりひとりの不断の努力が必要だということを理解してもらいたい、そういった運動にしたい、というのが準備会の世話人からの意見でした。

名称は主として、東京の税理士を中心にするが、税理士という職業では「九条の会」ができていないことから、どこの会所属かは問わないこととして、東京を入れないで、単に「税理士九条の会」ということに決まりました。準備会の代表には阿部国博、市吉澄枝、渡部至といった軍隊の経験者、思想統制の下、特高にひどい目にあわされた経験をお持ちで、だからこそ平和と自由、人権が大切と日ごろからお話なさる3人にお願いしました。事務局は会計事務所として大きくて、名が知られている第一経理にお願いし、財政はすべて募金、寄付金(カンパ)でまかなうこととし、そのため口座の開設をすることにしました。

そして会を設立するために呼びかけ人になっていただける方を募ることにし、東京税理士会の執行部、会長、副会長、常務理事、顧問、相談役および世話人関係者らに「設立趣意書」「九条の会アピ−ル」カンパ要請書などを入れた封筒を送りました。その結果、昨年末までに呼びかけ人になってもよい、名前は公表しないが、会の主旨には賛同するといった返事が150人ほど参りました。

ただ残念なことに税理士会の執行部におられる方、顧問、相談役の方からは返事が大変少なかったのです。個人的には賛成だが立場上呼びかけ人にはなれない、という方もおられます。私個人はこの意見には承服できません。私たちは何も特別な、あるいは偏ったことをしようとは思っていないのです。あの大戦で多くの尊い人命と貴重な財産が失われたのです。特に東南アジアの国々と人たちには多大な迷惑をかけました。このことを素直に心から詫び、日本は再び戦争をしない、戦力を持たない、紛争解決のために武力行使はしない、と全世界に誓ったのです。その誓いが九条です。その九条が危ないのですから、護っていこうというのは日本人として当然なことと私は思っています。“正義はわれにあり”です。立場を言う前に個人的信念で勇気を持って賛同していただきたい、私はそう思っています。が、今後の課題です。2006年からは事務局体制をとりまして、1月13日、3月22日、4月8日、5月1日、25日と設立のための準備会を重ね、本日の結成総会を迎えることができました。 

   
3、カンパと代表について

さて、カンパですが、現在までに149名の方から、2,507,550円が集まってきております。(郵便局の手数料控除後)大口は100万円という方が一人、ほかに10万円がお二人いらっしゃいます。100万円というのは桁外れに多いので、念を押したのですが、「私も戦争体験者の一人として、戦争は二度とあってはいけないし、国民の自由を奪ってはいけないと思う。しかし現実の動きはきわめて危険だと考える。私の残りの人生のすべてをかけても九条を護る運動にしたい」とのことでした。私自身も思いはまったく同じす。この浄財を基にして通信費、印刷費、諸雑費、本日の会場費等がすでに支払われておりまして、本日現在215万円余りが残っております。今後も無駄遣いをせず、有効に使用していきたいと思います。

ところで会の会長といいますか、代表ですが、先ほど阿部準備会代表から話がありましたように現在のところ決まっておりません。税理士会にあるさまざまな諸事情を考慮して代表は最初から複数にしたいと準備会では考えていました。そして先ほど申し上げました主旨から、税理士会で過去において一定の功績のあった有名人、税理士会員ならどなたでも名前を存知挙げている方、そうした方、数名に打診したわけですが、残念ながらはっきりした受諾の意思をいただいておりません。ほかの問題では意見が違っていても、九条を護るという一点で協調して欲しいのですが、なかなか難しいこともあるようです。

そこで準備会の代表であるお三人に、引き続き代表を継続していただくことになりました。ただ、お三人はご高齢ということもありますし、いつまでもお願いしておくわけには参りませんので、できるだけ早く後任を決め、世話人会の承認を得られ次第発表しますので、もうしばらくお待ちくださいますようお願いします。

4、全税理士の過半数にむけて

今後のことですが、本日の結成総会は出発点に過ぎません。私たちの使命はすべての税理士に日本の平和主義、民主主義のあり方を訴え、現憲法の理念を語り、賛同してもらうことにあります。したがいまして東京の税理士は1万8千人おりますが、何らかの方法で会の存在を知ってもらい、ともに行動していきたい。賛同した税理士が本気になって関与している仕事先に訴えかけてもらえば、その影響力は馬鹿にできない、と思っています。

ですから壮大な計画であることはわかっていますが、東京会の全税理士の過半数の賛同を目指してがんばりたい。そして10月には大々的に学習会か、勉強会といったものを開催したいと考えます。ただ、財政的には80円の切手代を一回出すだけでも144万円かかるわけでして、これに返信用の葉書でも入れれば234万円もなります。これにチラシの印刷代、封筒代などを考えますと、現在ある215万円は通信費一回にもみたなくなってしまう。 そういったことも考慮して世話人会でいろいろな方法を考えたいと思います。それから、ニュースを発行していきたい。税理士の特色として、予算と軍事費みたいなことを調べていきたいと思います。

国会の状況はきわめて憂慮すべき状態であります。改憲を目的にした国民投票法案、これは今国会では成立しないようですが提案されております。国会内の力関係では残念ながら、私たちは少数勢力です。ですから、それこそ私たちのできるあらゆる努力を今すぐ始めないと、かけがえのない日本国憲法はいつの間にか「改悪」されてしまうのです。

5、おわりに

私自身も残り少ない税理士生活ですが、仕事の一環としてこの「九条の会」を考えていきたい、それが私たちの次の世代に引き継ぐ私たちなりの義務だと思うのです。

税理士界では本日の結成総会に続いて、大阪でも開かれると聞きしました。私たちは、各地に同様な会ができることを強く呼びかけたいと思います。

世話人、事務局の人たちのご協力を引き続きお願いするとともに、本日参加された皆さんの絶大なご支持をお願いしまして、経過とこれからの運動計画の報告を終わらせていただきます。ありがとうございました。
(くぼた・ゆきお)

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