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時潮

金融危機
税経新人会全国協議会副理事長  大塚  洋美  

リーマンショックで巻き起こった金融危機が、巨大な津波となって世界に広がっている。
我々の顧問先である中小企業も例外ではなく、確実に弱ってきている。東京商工リサーチによれば、平成20年4〜9月期の倒産件数は前年同月比11.0%増。10月だけでも同13.4%増の1,429件が倒産し、単月べースで5年5ヶ月ぶりの高水準である。

販売不振や売掛金の回収難など「不況型」が全体の75%を占めている。その傾向・特徴は、1 中央より地方、規模は大企業より中小、零細企業が多いこと、2 業種的には建設業、卸、小売業、サービス業などの "内需型" であることだ。

現在、生き残っている企業も、まだまだ辛抱の時期を過ごさなければならないが、企業存続のためには、資金繰りのために金融機関に頼らざるを得ない。中小企業は地域金融機関(地銀、第二地銀、信金、信組)と取引をしている場合が多いと思われるが、その地域金融機関は、多くの場合、預金が過剰で、貸出先が少ないという問題を抱えている。貸出金は全預金量の5〜6割にすぎず、残りは有価証券で運用している。海外金融機関の社債やノンリコースローンなどの証券商品、あるいは国内の不動産投資信託などだが、デフォルト(債務不履行)が相次ぐ事態となり、不動産投資信託も大幅に下落している。

経営の脆弱性を未だに克服できずにいる地域金融機関の不良債権比率は、現状においても地銀4%、第二地銀4.5%、信金6%、信組にいたっては10%以上あるといわれている。金融機関はいったん自己資本が傷むと従来の投融資が難しくなり、資金回収に動かざるを得なくなる。

金融機関は融資先の状況に応じて、債務者を「正常先」「要注意先」「要管理先」「破綻懸念先」「実質破綻先」「破綻先」の6段階に区分している。要管理先以下を不良債権として開示し、債務者区分が下がるほど金融機関は融資の焦げ付きに備えて貸倒引当金を積む仕組みになっている。その額は要管理先で貸出額の20〜30%、破綻懸念先では60〜70%にのぼる。その分だけ金融機関の負担が増え、利益が下がる。だから債務者区分がすぐに下がるような先への貸出しにはどうしても抵抗がある。

20年10月以降、各行の融資態度は一層厳しさを増してきている。資産の洗い直しが始まり、格付け(債務者区分)を下げる企業が続出すると予想されている。

その結果、分割返済を迫られ、担保の提供を要求され、金利が上げられるといったことが表面化してくる。拒否すれば「全額返済」を要求されるケースもあるかもしれない。これは融資を受ける側にとっては "貸し渋り" であり "貸し剥がし" だが、金融機関は格付け制度に基づいてマニュアル通りに業務を進めているに過ぎないのである。

このような事態に中小企業はどう対応するべきなのか。重要なのは融資を申し込むだけで金融機関からの働きかけを待つのではなく、自社の経営状態をアピールし働きかけることである。
そのポイントは、1 キャッシュフローの明確化、2 定性的分析項目のアピール、3「経営計画」の策定である。

1 については、金融機関に対し借りた資金を何に使い、いつまでに返済をするのかをキャッシュフローに基づいて説明をする。例えば「仕入資金」や「運転資金」の借入を申し込む際には資金繰予定表を提出するといった具合である。

2 の定性的分析項目とは、販売力や技術力、経営者の資質、含み益といった、決算書には現れない自社の強みのこと。金融機関は決算書からコンピューターで財務内容の評価(定量的分析)を行うが、それを修正できるのは唯一、定性的分析項目だけだそうであるから、これを金融機関にアピールすることが重要になってくる。

3 については、実現可能な「経営計画」の策定は、格付けを確実にワンランクアップするには極めて効果的である。

これから中小企業はますます深刻な状況を迎えるに当たって、中小企業の良き相談相手である税理士の出番が増えてきそうである。

(おおつか・ひろみ)


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