論文

> 「三位一体改革」による自治体財政の現状と税源移譲の現実
法人事業税の地方配分問題について
伊藤  幸男(自治労連都庁職東税支部)

はじめに

自民党は、12月13日に発表した「平成20年度税制改正大綱」において、地方分権改革、経済社会構造の変化、地方の歳出構造の変化等に対応し、税源の偏在性が少なく、税収が安定的な地方税体系を構築するため、消費税を含む税体系の抜本的改革において、地方消費税の充実と地方法人課税のあり方の見直しを含む地方税改革の実現に取り組むことを表明し、抜本的改革までの暫定措置として、地域間の財政力格差の縮小、税源偏在の是正に対応するため法人事業税の配分見直し案を提起した。

法人事業税については、都道府県間の税収の偏在の是正や税源の帰属の適正化を図ることを理由に、昭和26年に「原則として従業者数とする」と定められてから7回にわたり、分割基準が改正されてきた経緯がある。しかし、この間に行われてきた分割基準の改正は、地方からの大都市に集中しすぎている税収の偏在の是正要望への配慮に重点が置かれており、東京都からは「分割基準」を財政調整の手段として用いようとするものとの反論もされ、地方税としての性格やあり方をめぐる問題として議論されてきた。

安倍内閣のもとで提起された「ふるさと納税」をめぐっても税収偏在の是正手段との主張もあり、地方税のあり方をめぐる議論にもなっている。

今回の自民党の法人事業税の配分見直し案は、地域間の財政力格差の縮小を目的としたもので、地方の独自財源を縮小するとともに、国税の課税・徴収事務を地方に行わせようとするものであり、自治体の課税自主権を侵害し、地方税のあり方を根本からゆがめかねない問題を持ち込むものである。見直し案は、地方法人課税のあり方について抜本的な検証が求められるものであり、分割基準により配分を見直してきた経過や問題点も踏まえて、問題点の検討を行うこととする。

1. 法人事業税の性格

法人事業税は、法人の行う事業に対して課せられる都道府県税で、法人が事業活動を行うにあたって受けている地方公共団体の各種の行政サービスの負担を求める応益課税を原則とする物税とされ、都道府県内で事務所・事業所等を設けて事業を行う法人が納税義務者となる。

課税標準は、税の性格から「事業活動量(事業活動の規模)」を表わすもの」が望ましいとされ、電気供給業・ガス供給業及び保険業を行う法人は収入金額、その他の法人は原則として所得金額とされてきた。しかし、長びく不況の影響を受け、赤字法人が6割を超える状況が続き、一部の法人のみが事業税を負担しているのは、応益課税の原則から好ましくないとの指摘や都道府県の基幹税である法人事業税の税収が景気に左右されるのは、安定的な行政サービスに支障があることなどを理由に、平成15年度税制改正において、資本金1億円超の法人を対象に、所得課税との併用ではあるが、付加価値額及び資本金等の額を課税標準とする「外形標準課税」が導入された。この「外形標準課税」については、自治体の側から「資本金枠の撤廃」や「外形標準割合の比重を高める」などの見直しを求める動きが強められつつある。

2. 分割基準改正の経過と問題点

(1)分割基準改正の経過
分割基準とは、複数の都道府県に事務所・事業所等を設けて事業を行う法人について、関係都道府県に課税標準額を按分するための基準であるが、昭和26年に法制化されてから <別表.1> のとおり改正が行われてきた。改正の理由として、社会経済情勢の変化に伴う企業活動の実態を踏まえた税源帰属の適正化を図ることをあげている。しかし、本社管理部門の従業者数1/2の算定や工場の従業者数5割増しなど大都市に集中する税収を地方へ配分しようとする財政調整機能として用いられてきたといわざるを得ない実態にあったことも事実であった。平成17年度の改正でも、IT化の進展やアウトソーシングの活用などといった事業環境の変化を踏まえた見直しとされているが、事務所数を基準として併用することとの関係が明確にされているとはいいがたい。

東京都では、平成元年度までに行われた分割基準の改正により、平成16年度ベースで500億円を超える減収になるといわれ、平成17年度改正における総務省の試算では、さらに600億円の減収が見込まれ、平年度ベースでは、1,100億円の減収となる。この間の分割基準の改正は、結果として東京での減収分が地方への増収となっており、東京を狙い撃ちにした地方への配分といわざるを得ないものであった。このような改正に対し、東京都は「国から地方への税源移譲に伴う地方団体間の財政力格差への対応として、分割基準を財政調整の手段として用いようとするものであり、公平・公正であるべき税の本質をゆがめ、自治権を侵害するもの」との批判を行っている。

<別表.1> 法人事業税分割基準の改正の経過

改正年度 改  正  内  容
昭和26年 分割基準を「原則として従業者数とする」と定める。

昭和29年
金融業・保険業 事務所数1/2
従業者数1/2
電気供給業・ガス供給業・倉庫業 事務所等の固定資産の価額
鉄軌道業 軌道の延長キロメートル数
昭和37年 資本金1億円以上の製造業の本社管理部門の従業者数を1/2に割り落とす。
昭和45年 資本金1億円以上の本社管理部門の従業者数を1/2に割り落とす。
(昭和37年改正を全業種に拡大)
昭和47年 電気供給業の分割基準の改正
事務所等の固定資産の価額1/2
発電所の固定資産の価額1/2
昭和57年 電気供給業の分割基準の改正(発電所の比重を増やす)
事務所等の固定資産の価額1/2→1/4
発電所の固定資産の価額1/2→3/4
平成元年 資本金1億円以上の製造業の工場の従業者数を5割り増しとする。
証券業の分割基準の改正金融業・保険業と同様の改正
事務所数1/2、従業者数1/2
平成17年 従業者数のみの業種のうち製造業を除き、事務所数を併用する。
事務所数1/2、従業者数1/2
資本金1億円以上の本社管理部門の従業者数を1/2に割り落とす措置を廃止する。
(2)分割基準改正の問題点
法人事業税は、事業を行う法人に対する応益課税を原則とする物税で、「事業活動量(事業活動の規模)」を課税標準としている。分割基準は、こうした法人事業税の性格を表わすものであるとともに、申告納付の方法を採用していることから、納税者の便宜等も考慮し、簡便な指標であることが望ましいとされている。この考え方に異論を唱える自治体はないが、具体的な基準になると、その主張は東京と地方では真っ向から対立しているのが現状である。地方からは「税収と事業活動規模が乖離し、税収が大都市に集中しており、偏在を是正する必要がある」との主張がされる一方で、東京からは「事業活動規模を的確に表わした指標とはいえず、東京都の税収を地方に配分しようとするものである」との主張がされている。

具体的な基準では対立しているが、「分割基準」を法人事業税の性格である「事業活動量(事業活動規模)」を的確に表わす指標とすることでは一致している。こうした観点から、平成17年度税制改正における「従業者数」に加えて「事務所数」を基準に用いたことが、「指標」としてふさわしかったのか検証する必要がある。

東京都税制調査会の平成18年11月の「中間報告」では、「法人の事業活動の実態を最もよく表わす指標は付加価値であり、付加価値の7割以上を占める人件費を反映している「従業者数」が分割基準としてふさわしいもので、「事務所数」は付加価値との相関関係がなく、法人の事業活動と行政サービスとの受益関係が適切に反映されるべき応益目標として不適当なもの」として「従業者数」によるべきと主張している。

事業活動の実態を「従業者数」のみによることは、IT化の進展・アウトソーシング、さらにインターネットによる全国的な事業展開など人手に頼らない今日の法人の事業活動の実態を的確に反映しきれない面をもっていることは否定できない。事務所の存在自体は事業活動の拠点として重要な要素であるが、事業活動の規模を図る「分割基準」の指標としては、事務所の規模(床面積等)を無視して、事務所数のみで表わすというのはふさわしい基準とはいいがたいと考える。

もう一つの観点は、簡便かつ明確な指標となっているかである。今回の改正では「製造業」の業種認定の困難さが増している。製造業について「有機又は無機の物質に物理的、化学的変化を加えて新製品を製造し、これを卸売する事業所」と定義されているが、この定義だけで、複雑な業態を行う法人の事業を認定するには困難な場合があり、また、製造小売が製造業に該当しないなど一般的な感覚からはかけ離れている。「事務所数」の数え方でも、同一区画の問題や同じ建物のフロアーの違い、経理区分などにより異なっており、複雑で明確な指標とはいいがたい。
(3)分割基準のあり方
法人事業税の「分割基準」として、法人の事業活動や事業規模と行政サービスとの受益関係を的確に反映でき、簡便かつ明確な指標とすることは当然としても、複雑な事業展開を行う法人の実態を的確に反映させる指標を示すことは極めて困難であり、法人事業税の税としての性格を反映できる指標にならざるを得ないのではないか。

「外形標準課税」導入の際に、応益課税を原則とする法人事業税の課税標準として、付加価値が最もふさわしいとの議論がされた。その議論を踏まえるならば、付加価値を基準とした「分割基準」が法人事業税の性格を踏まえた最もふさわしい「指標」といえる。付加価値は「報酬給与額」「純支払利子」「純支払賃借料」からなっており、簡便かつ明確な指標という観点から、これらの要素を簡便な数値として表わせるものが望ましく、付加価値の7割を占めている「報酬給与額」を反映している「従業者数」によることが、今日の法人の事業活動の規模を適切に反映しきれない側面をもっていたとしても、最もふさわしい基準といえるのではないか。

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