論文

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同族会社の行為計算否認の準用規定創設の意義
  東京会  関本  秀治

はじめに

平成18年度(06年度)の税制改正で、「同族会社の行為又は計算の否認」に関する規定で、所得税法では157条3項が、法人税法では132条3項が、相続税法では64条2項が、地価税法では32条3項が、それぞれ新設されました。

この問題について、平成18年度の「改正税法のすべて」(毎年、財務省主税局の立案当局者が解説する財団法人日本税務協会発行のもの)において、概ね次のような解説がされています。

たとえば、法人税法132条3項については、「所得税法第157条や相続税法64条の規定の適用による所得税、相続税又は贈与税の増額計算が行われた際に、反射的に法人税の課税所得等を減少させる計算を行う権限が税務署長に法律上授権されているかは必ずしも明らかではありません。このような状況の下では、納税者の利便性が損なわれる上、例えば、法人の収益のすべてをその株主等の所得として計算することによる租税回避的な『法人成り』に対応する際に、その執行に支障を来しかねないといったことが考えられます。そこで、会社法の制定を機に、『法人成り』の増加も見込まれるという状況をも踏まえ、所得税法及び相続税法の適用関係に係る明確化措置として、所得税法第157条や相続税法第64条の規定による所得税、相続税又は贈与税の増額計算が行われる場合に、税務署長に法人税における反射的な計算処理を行う権限があることを明定することとされました。」と説明されています。(374ページ)。

また、所得税法157条3項についても、「法人税法及び相続税法の適用関係に係る明確化措置として、法人税法132条や相続税法64条の規定の適用による法人税、相続税又は贈与税の増額計算が行われる場合に、税務署長に所得税における反射的な計算処理を行う権限があることを明定することとされました」(227ページ)と同旨のことが延べられています。

この改正について、同族会社の行為計算の否認規定が適用されて、一方で増額更正が行われた場合には、地方では当然減額更正が行われることが明定されたという解釈がされたり、いや、条文からはそうとは読めないなどの意見が相ついで出されています。

たとえば、「税理」06年(平成18年)11月号の酒井克彦国士館大学教授「同族会社の行為計算否認に係る対応的調整規定創設の意義」は、「『対応的調整』が法定されたということは、税務署長の義務の創設と解する余地もないことはないと思われる」としながらも、「今回の法改正によっても解決されるとは思えない」、「さらなる改正をも期待されるところなのではなかろうか」と疑問を提起しています。

また、「税理」07年6月号の田中治大阪府立大教授「同族会社の行為計算否認の見直しで脚光を浴びる対応的調整規定」は、「一般に、この改正は、経済的二重課税等を考慮して導入されたものと考えられている。この考え方は、所得税において行為計算が否認され税金が増えれば、それに対応して法人税も減るという対応的調整であって、これは、納税者にとって福音であると考えるのであろう。しかしながら、実際の条文の組立てをみると、このような理解が成り立つか、相当の疑問が生じる」、「実務的にのみいえば、対応的調整だと説明されている規定がある以上は、納税者は他の税目について減額更正を求めるべきであろうが、その権利性を確かなものとするためには、現行の規定では不十分である。」と、やはり改正規定の不備を指摘しています。

同誌の山本守之税理士の「対応的調整における実務上の問題点」では、「つまり、平成18年度改正で対応的調整による(減額)更正の権限が税務署長に創設的に付与されたと考えるべきである」、「また、税務署長が(減額)更正をしない場合には、行政事件訴訟法の義務付けの訴えによって処理することになろう。」と述べ、これを納税者の権利保護のために積極的に活用すべきであるとの解釈を示しています。

このように、昨年(06年)の同族会社の行為計算否認についての「準用規定」の創設について、論者により意見が異なり、いずれも立案当局者である財務省主税局の説明を全面的に是としているものはないように思われます。そこで、これらの文献も参考にしながらこの問題について検討しておきたいと思います。

同族会社の行為計算の否認規定について

まず、昨年の改正問題を検討する前提として、法人、所得、相続等の各税法の「同族会社等の行為又は計算の否認」規定についてみておきたいと思います。

憲法が規定する租税法律主義のもとでは、国民の代表機関である議会のみが課税権を行使することができ、国民は、法律の定めるところ以上には租税を徴収されないという権利を有すると解されています。

この原則から、税法の領域においては、不確定概念、概括条項、自由裁量規定は禁止され、下位法である政令や省令への委任は、個別的・具体的でなければならず、包括的・一般的な委任命令は違憲無効であるとされています。さらに、租税法律主義の内容の一環として、税法の類推解釈、拡張解釈は禁止され、行政先例法や行政慣習法等の不文法は成立する余地がないこと、法律の明文規定によっても、納税者の不利益に租税法律を遡及的に適用することは許されないなどの具体的法理が抽出されます(北野弘久『現代税法事典』〔中央経済社〕16ページから要約)。

租税法律主義の以上のような観点から、法人税法等の同族会社の行為計算否認規定をみると、多くの疑問が生じます。法人税法132条1項は次のように規定しています。
(同族会社等の行為又は計算の否認)
  第132条税務署長は、次に掲げる法人に係る法人税につき更正又は決定をする場合において、その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる。
(以下略)
同族会社は、少数の株主が支配する会社であるから、法人税の負担を軽減するために、通常の会社であれば行わないような異常な法形式などをとる場合があり、それを放置するとその法人の税負担を著しく軽減させることがあるので、それを防止したり是正するためにはこのような措置が必要であると説明されています。このような考え方の基礎には、税法の領域においては、外見上の法形式や取引形態にとらわれずに、その経済的実態を把握して、その経済的実態に即した課税を行う必要があり、それが税法の立法や執行のすべての過程において負担の公平を確保するための適切な手段であるという「実質課税の原則」という思想があります。

国税通則法が制定される際の税制調査会の答申の中にもそのような考え方が示されており、「実質課税の原則に関する規定、租税回避行為の禁止に関する規定および行為計算の否認に関する宣言規定」を、新たに制定される国税通則法の中に明文化することを求めていました。この税制調査会の答申については、日本税法学会など学界や中小企業団体、さらには、人格のない社団又は財団についての規定をめぐっては労働団体等からも、「税法を労働組合や市民団体に対する『弾圧法規』として利用しようとするもの」という理由で、いわば全国民的な反対運動が展開されました。そのため、税調答申が発表された後に、当時の大蔵省主税局は、「国税通則法の制定について」と題する声明を発表し、「その制度化については、今後における納税者の記帳慣習の成熟や判例学説の一層の発展をまつ方がより適当であると認めざるを得なかった」という理由で、答申のうち、次の5項目については立法化を見送る旨の態度を表明せざるを得なかったという経緯がありました。その5項目とは、次のようなものです。
1. 実質課税の原則に関する規定、租税回避の禁止に関する規定および行為計算の否認に関する宣言規定
2. 一般的な記帳義務に関する規定
3. 質問検査権に関する統合的規定及び特定職業人の守秘義務と質問検査権との関係規定
4. 資料提出義務違反についての過怠税の規定
5. 無申告脱税犯に関する改正規定
(国税通則法の制定過程については、「税経新報」昭和52年4月15日発行の号外、吉田敏幸「国税通則法制定に反対するたたかいの記録」、同誌21ページ以下を参照)
「実質課税の原則」という思想は、このように長い歴史をもっており、学界でも、当時から激しく意見がわかれていたところです。現在の若い研究者の中には、このような論争についての認識が欠けているため、いまだに、国税通則法の制定についての税調答申などを拠りどころとして、「実質課税の原則」は、税法に特有な立法上および法解釈、適用上の当然の規範であるかのように考えているものがあります。たとえば、「税経通信」に連載中の、中央大学教授大渕博義氏の「判例法人税法講産」では、「租税法における実質課税の原則又は実質主義は……私法上の採用された外形上の『形式』より『実質』を優先して、その経済的実質に従って課税関係を律するという考え方である。このような実質課税の原則の法理が立法上の基礎的原則として、加えて、租税法の解釈適用又は所得等の課税物件の帰属における重要な法理として機能するのは、実質的な租税負担能力に応じた課税による租税負担の公平を実現すべく、立法上考慮する基準としてはもとより、税法の解釈適用においても、外形上の形式にとらわれることなく、その経済的実質に即した課税関係を形成することにある」(同誌の07年7月号49ページ)と述べているのは、その典型的な例といえます。

同族会社の行為計算の否認に関する規定は戦前から存在し、その内容は、ほぼ現在の規定に類似したものでした。

現在のような形になったのは、昭和40年(1965年)の法人税法、所得税法等の全文改正からで、それから40年以上変更されず、昨年、はじめて前述の「準用規定」が設けられました。この「準用規定」を検討することが本稿の目的ですが、それは項を改めることとして、ここでは「同族会社等の行為又は計算の否認」について検討しておきたいと思います。

さきに述べた租税法律主義の課税要件は、法律で明確に定めなければならないという要請からみると、同族会社のどのような行為、あるいは、どのような計算が否認の対象になるのかはほとんど明らかにされていません。これでは、租税法律主義の要請である法的安定性、予測可能性の要件を満たしているとはいえません。つまり、結論的にいえば法人税法132条1項や所得税法157条1項の規定は、租税法律主義に反する違憲無効の規定ということになります。

税法学上は、税法に違反して税負担を逃れる行為と、私法上有効な法形式を利用することによって結果的に税負担を逃れ、あるいは、税負担の軽減を図る行為とは、厳密に区別しています。前者は、租税捕脱行為(脱税)であるのに対して、後者は狭義の租税回避行為(節税)と説明されています。

ここでいう狭義の租税回避行為は、私法上、有効な行為を前提としていますから、これを否認する個別・具体的な規定がないかぎり否認することはできません。

「同族会社等の行為又は計算の否認」に関する法人税法や所得税法の規定は、あまりにも包括的・概括的な規定であり、租税法律主義のもとでは、同族会社の個別・具体的な節税行為を否認することはできないというべきです。それでは、税法の他の規定で狭義の租税回避行為を否認する条項があるかといえば、残念ながらそれが他には見当たりません。唯一それを意図しているとみられるのが、この「同族会社等の行為又は計算の否認」規定ですが、立法的に有効な規定となっているとはいえません。

だからこそ、国税通則法制定の際に、「実質課税の原則」、「租税回避の禁止に関する規定」、「行為計算の否認に関する宣言規定」などを盛り込もうとしたのだと思われますが、その試みも失敗して、現在までそのような趣旨の規定を設けることに政府は成功していません。

しかし、一方では、この規定を適用して同族会社の行為計算を否認する課税処分を行い、これを争って訴訟になった場合には裁判所は個別事案についてはこれを追認する判決を出すという形で既成事実を積み重ねつつあるというのが現状だといえます。

以上のことを前提にして、昨年つけ加えられた「準用規定」の意味について以下検討を加えてみたいと思います。

06年の「準用規定」の解釈

06年の改正で追加された準用規定は、次のとおり定めています。これは、法人税法132条3項ですが、所得税法157条3項、相続税法64条2項、地価税法32条3項も、他の対象となる税目についての規定がそれぞれ入れ替っているだけで、ほとんど同文の規定となっているので、検討は、この法人税法132条3項を対象にして行うこととします。
法人税法132条(同族会社等の行為又は計等の否認)〔カッコ書き省略〕
3第1項の規定は、同項に規定する更正又は決定をする場合において、同項各号に掲げる法人の行為又は計算につき、所得税法第157条第1項若しくは相続税法第64条第1項又は地価税法第32条第1項の規定の適用があったときについて準用する。
上記各税法のそれぞれの第1項は、「その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、......税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる」(所得税法157条では、「所得税の負担を不当に減少させる......」、相続税法64条2項では、「相続税又は贈与税の負担を不当に減少させる......」等となっています。)と規定されており、その税法に規定されている各税の負担を「不当に減少させる結果となると認められるものがあるとき」に、その行為又は計算を否認して、税務署長の「認めるところにより」その「不当に減少させ」た税額について増額更正または増額決定をすることができるとしか読みようがありません。

理解しやすくするために例を挙げて説明すれば、例えば、次のような場合が考えられます。

Aは、年間3000万円の収入のあるアパートを所有していますが、「節税」のため甲会社を妻Bと折半の出資で設立して、この会社に年間1000万円の賃料で賃貸します。

このアパートの必要経費は、固定資産税等、減価償却費、水道光熱費等で1000万円とします。すると、Aの不動産所得は0となり甲会社には2000万円の利益が出ることになります。これを甲会社の取締役となったAとその妻Bで1000万円づつ役員報酬として分けたとします。

A、Bには、それぞれ甲会社からの役員報酬のほかにAには雑所得500万円、Bには同じく雑所得300万円あります。Aの不動産所得は、賃料収入と必要経費が共に1000万円ですから0円となります。1000万円の役員報酬は給与収入ですから、給与所得控除後の給与所得の金額は次のとおりです。

(給与収入) (給与所得の額)
1000万円×90%−120万円=780万円
A、Bの当初申告は次のとおりになります。
A 給与所得 780万円
雑所得 500万円
合計 1,280万円
所得控除額 80万円
課税所得 1,200万円
税額 242,4万円
B 給与所得 780万円
雑所得 300万円
合計 1,080万円
所得控除額 80万円
課税所得 1,000万円
税額 176,4万円

Aの不動産所得が無くなったことについて調査した結果、甲会社において上記のような処理をしていることがわかったので、税務署長は、甲会社について同族会社の行為計算の否認規定を適用して、Aの不動産所得と税額を次のとおり更正したとします。

不動産所得
賃料収入 3000万円
甲会社へ支払うべき正当な管理料 300万円
不動産収入に対する通常の必要経費 1000万円
差引不動産所得の金額 1700万円
Aの所得金額および税額
不動産所得 1700万円
給与所得 780万円
雑所得 500万円
2,980万円
所得控除額 80万円
課税所得金額 2,900万円
所得税額 800,4万円

甲会社の所得計算はどうなるのかといえば、Aと甲会社との間の1000万円での賃貸借契約は、私法上有効であり、同様に甲会社が、A、Bに支払った役員報酬各1000万円、合計2000万円も会社法上違法とはいえません。したがって、甲会社の0申告、Bの確定申告も、役員報酬が適法に減額手続(株主総会等の決議に基づいて会社に返還されるなどの手続が適法に行えたとすれば)が行われないかぎり、税務署長が、自主的に減額更正をしてくれるわけでもありません。A、Bの役員報酬部分についても同様です。

私法上は、甲会社の計算も、Aと甲会社との間の賃貸借契約も適法、有効ということができます。

Aの不動産所得についての更正処分によって、Aは、給与所得と不動産所得について、Bは給与所得について明らかに二重課税を受けていることになりますが、このような場合、昨年改正された準用規定によって、税務署長が、自主的に、職権による減額更正を行うのか、あるいは、行うことができるのか、または、否認規定の適用による増額更正に伴って「反射的な計算処理」(つまり、他の税目について減額更正をする処分)をすることを、納税者の権利として請求することができるのかといえば、その点は全く不明です。

これらの点について、法律の構成上も、納税者の実体的な権利保護の観点からも非常に重要な問題であるにもかかわらず、この「改正」については、事前に全く議論されず、税制調査会の答申でも全く触れられてはいません。いわば、突如として法改正が行われ、それが立案当局者の「解説」として出現したというのが実情ではないかと思われます。

解説では、法人税、所得税、相続税等で、行為計算否認規定が適用され、増額更正が行われた場合は、「反射的に法人税の課税所得等を減少させる計算を行う権限」が、税務署長にあるあることを「明定」したものであるとされています。

しかし、この項のはじめに述べたとおり、3項は、1項の準用規定であり、1項は、増額更正だけしか予定されていません。そうだとすると、これは、減額更正するために使うことができるとは、文理上どうしても読むことができません。むしろ、一つの行為計算の否認に関連して、他の税目でも増額更正することを予定した規定ではないかという疑問さえ生じかねません。

もし、これが、一つの行為計算否認に関連して、他の税目について減額更正する権限を税務署長に新たに認めたものであるというならば、この規定は明らかに不適当な表現だといえます。もし、そのような趣旨の立法を予定していたのであるとしたならば、この改正趣旨を明確にするために、「......行為又は計算の否認規定の適用があったときは、その処分に係る他の税目について職権をもって課税標準又は税額等を減額する処分を行うものとする」という趣旨に改めることが必要だと思われます。その表現の仕方については、私は、法律の立案の専門家ではありませんので不正確だと思いますが、言わんとするところは理解してもらえるのではないでしょうか。

「準用規定」の創設への対応

この準用規定が、もし、立案当局者の解説の通りに、「納税者の利便性」を考慮して、いわば念のために、税務署長が、他の関連する税目について、「反射的」に課税標準や税額等を減少させる計算(本来は、そのような処分というべきですが)を行う権限があることを確認的に定めたものであるとするならば、そのような処分がされなかった場合に納税者はどのように対処したらよいのかという問題が生じます。

現行法では、納税者が権利として減額更正を請求する手続上の規定が整備されていないわけですから、行政事件訴訟法で新設された「義務付けの訴え」(行政事件訴訟法37条の2)を提起することも一つの方法だと考えられます。

しかし、義務付けの訴え(行訴法37条の2)は、それを単独に提起することはできず、(同法37条の3、第3項)、「申請又は審査請求に対して相当の期間内に何らの処分又は裁決がなされない」(同法37条の3、第1項1号)、「申請又は審査請求を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決が取り消されるべきものであり、又は無効若しくは不存在である」場合に、「処分又は裁決に係る不作為の違法確認の訴え」、または、「処分又は裁決に係る取消訴訟又は無効等確認の訴え」と「併合して提起しなければならない」(同法37条の3、第3項)ことになっていますから、義務付けの訴えが規定されたからといって、単純にそれだけを提起することはできません。

それでは、併合して提起すべき訴えの前提となる不作為の違法確認の訴えの対象となるべき不作為は何か、あるいは、処分又は裁決取消訴訟、あるいは無効確認の訴えの対象となる処分又は裁決は何かということが確定されなければなりません。

そこで、現行法(改正された同族会社の行為又は計算の否認に伴う他の税目への準用規定)を前提として、納税者の救済についての手続規定が整備されていない現状にどう対応すべきかについて検討しておく必要があるように思います。

現行法の規定により、ある税目について同族会社の行為計算の否認規定の適用による更正処分があった場合、これを国税通則法23条2項2号の「その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算に当たってその申告をし、又は決定を受けた者に帰属するものとされていた所得その他課税物件が他の者に帰属するものとする当該他の者に係る国税の更正又は決定があったとき」に該当するものとして、行為計算の否認に係る更正又は決定処分があった日の翌日から起算して2月以内に更正の請求ができると解することも可能です。

国税通則法23条2項は、1項が法定申告期限から1年以内に行える、通常の更正の請求に対して、1項の期限が経過した後に判決の確定や和解の成立により課税関係に変更が生じた場合(1号)、他の更正・決定により課税関係に変更が生じた場合(2号)、1号、2号に準ずる場合として政令で定める場合(官公庁の許可の取り消し等、契約の解除権の行使、通達の改正等により法令の解釈が変更された場合など)には、その事実が生じた日から2か月以内に減額更正の請求をすることができるという規定です。

この規定からいって、行為計算の否認に伴う更正・決定は、国税通則法23条2項2号に該当すると解することにそれほど無理はないように思われます。

ただ、実務上の問題としては、行為計算否認に伴う申告の「是正」は、課税庁側としては、後に、争いとなることを避けるため、修正申告ですませようとすることが多いので、実務上は、国税通則23条2項の「更正又は決定」とはならない場合があるので、条文の厳密な解釈からいうと、この修正申告による事実上の行為計算否認による是正計算は、更正又は決定に当たらないから、前記23条2項の要件には該当しないという逃げ道を課税庁に残してしまうということになりかねません。

これに対抗するためには、調査に伴う修正申告は、行為計算否認に係る部分は除外して行い、行為計算否認に係る部分については更正処分を受けるという対応をとることが望ましいでしょう。しかし、実際の実務は、このように単純に割り切れるものではなく、「これは認めるから、行為計算否認部分は修正申告で」というような「取り引き」がされる場合もあると思いますので、更正を受けて争うという対応は、かなりの困難を伴うものと思われます。

さらに、行為計算の否認に伴う他の税目への影響は、法人の所轄署と他の税目の申告を所轄する署とが異なる場合も考えられます。法人の本社が都心にあり、代表者の住所が郊外にあり、それぞれの納税地が違うような場合です。

これは、課税庁内部の問題ですから、行為計算否認に伴う処分を、当該他の税目の納税者の納税地の税務署長に通知するというような処理がされれば簡単に解決することですが、そのような処理が迅速に行われるという保証もありません。

義務付けの訴えというような煩雑な手続きを避けるためには、少なくとも今回のような意味不明の実効のない「改正」ではなく、その旨が明らかになるような条文に改めるとともに、それに伴う納税者の権利を保護するための具体的な手続規定を設けることが不可欠というのが、私の結論です。

おわりに

以上の検討をふまえて、念のために、「改正税法のすべて」の執筆者である財務省税制3課に、解説の趣旨とその具体的な取り扱いをどのように考えているのかを問い合わせてみました。執筆者とみられる課長補佐とは直接話すことができず、「検討して改めて返事をする」という回答でした。結局返答はなく、改めて回答を求めたところ、「立案の趣旨としては、二重課税を排除するために、対応する他の税目については減額更正ができることを明文化したもので、その手続規定までは考えていなかったというのが現状だ」という趣旨の答えが返って来ました。もちろん、これが主税局の正式の見解ではなく、個人的見解だという註釈付きの回答でした。

このような規定が設けられた結果、行政実務上、今後、どのような取り扱いがされるのか、課税庁内部で何らかの対応をするのか、あるいは、納税者側から更正の請求とか義務付けの訴えなどの対応がなされるのかというような動向を見極めたうえで、立法措置が必要ならそれを検討しようという日和見的な立場をとっているようにも思われます。

したがって、納税者の立場からいえば、この規定を積極的に活用して、何らかの行動を起こすことが必要と思われます。

ただ、断っておきたいのは、私は、同族会社の行為計算否認の各税法の規定は、租税法律主義に違反する違憲無効の規定であり、したがって、その1項を前提とした3項の規定もそれほど意味を持つものではないという基本的認識を持っており、この認識に変りはないということです。

最後に、同族会社の行為計算否認規定に関連して、法人税法(11条)、所得税法(12条)に規定されている「実質所得者課税の原則」について一言付け加えておきたいと思います。
所得税法12条は、次のように規定しています。
(実質所得者課税の原則)
第12条資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。
法人税法11条も、法人について同趣旨の内容の規定を設けています。この条文は、以前には「実質課税の原則」という標題がつけられていましたが、昭和40年の全文改正の際に標題だけが現行のものに変更されました。

これは、昭和37年に制定された国税通則法をめぐる論争において、税調答申にあった「実質課税の原則」という考え方が理論的に誤っているという批判に応えたものであると解されます。実質所得者課税というのは、単なる名義で判定するのではなく、法的実体に基づいて、本来の権利者に課税するという当然のことを確認したもので、いわゆる「経済的観察方法」とか、税法に特有の「実質課税の原則」を謳ったものでもありません。

そもそも、法的実体を伴わずに「資産又は事業から生ずる収益」を享受することはできません。もし、法的実体を持たない者が収益を懐に入れてしまったとしたら、本来の権利者がその権利を主張し、これを取り戻すことは当然です。ですから、税法の領域において特有の「経済的観察方法」とか、「実質課税の原則」などというものは存在せず、租税法律主義の原則だけが厳格に貫徹されなければならないということです。
(せきもと  ひではる)

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