時潮

コンプライアンス
税経新人会全国協議会制度部長後藤幸男
今から50年程前、私が小学校高学年のころ、先生の「君たちは将来、どういう人になりたいか?」という問いかけに男子はパイロット、学校の先生、医者、警察官、消防士、政治家など、女子はスチュワーデス、学校の先生、看護婦など、人に尊敬される人になりたいという答えが多かったように思う。ちなみに私は「サラリーマン」と答えたことを覚えている。何と夢のない、超現実的な答えだったことでしょう。
子供に尊敬されているはずの政治家に今、金をめぐる疑惑が相次いでいる。今年の1月に現職閣僚らの高額事務所費の問題で伊吹文明文部科学相や松岡利勝農林水産相の資金管理団体は家賃のいらない議員会館を事務所にしながら多額の経費を計上していたことが明らかになった。2005年までの5年間で伊吹文科相は総額で2憶2,000万円、松岡農水相で1憶4,000万円と私たち庶民の金銭感覚では到底理解し得ない額である。事務所費には家賃、電話代、切手代などの事務所維持にかかわる経費が計上できるらしいがどうしてこんなに高額になるのか。

収支報告は、事務所費の具体的な内訳は必要なく、総額を記載するだけでよく、領収書の添付も不要らしい。これでは何に使われたか分からない。もう一人の松岡農水相に至っては資金管理団体が事務所費以外に光熱水費として5年間で約2,880万円計上していたことが判明した。光熱費や水道代が無償の議員会館に事務所をおいているにもかかわらず「何とか還元水」というものを水道の蛇口につけているからだそうだ。光熱水費も事務所費と同様、経常経費として扱われ領収書の添付は不要とのこと。とても私たち庶民の感覚では理解できないことが政治家には可能となるらしい。

伊吹文科相は「不適切な処理は一切なく、法律に反していることはない」と述べているが、選挙で選ばれた人、ましてや閣僚がいう言葉ではない。政治家は私たち一般人と異なり法律で規定していなくとも高度なモラルをもって判断し、私たちの手本となる行動をとるべきだろう。安部首相は「美しい国づくりに向けて、礎を築くことができた」として、改正教育基本法の成立を挙げていた。その法律をつかさどるのが伊吹文科相である。こんな大臣に教育再生やいじめ問題を任せられるだろうか。「法律に書いていないから」といってこと細かくマニュアルを作るわけにはいかない。教育やいじめの問題はその場その場の「生」の出来事に対して高度な判断を要する。マニュアルに頼っていたのでは到底対応できない。
また、この原稿の依頼を受けたときにプロ野球西武ライオンズの現金供与問題と「ヤミ契約金」問題が明るみになった。西武ライオンズのスカウトがアマチュア選手2人に「栄養費」と称して約1,300万円にも上る裏金を支給していたし、同じく西武ライオンズと横浜ベイスターズは日本野球機構(NPB)の内規の契約金の最高標準額1億円を遙かに上回る「ヤミ契約金」を払って新人選手を獲得していた。スポーツジャーナリストの二宮清純氏は「唯我独論」の中でこう述べている。

『1994年のルール改正で最高標準額は1億円と申し合わせがなされたがあくまで内規であるため、違反しても法的には問題はないといわれれば確かにそうだろう。しかし、どんな社会や組織にも「義務」と「規律」があり、それを満たしてはじめて「権利」が生まれる。その延長上に「自由」があると考える。それをはき違えているのが今のプロ野球だ。プロ野球は野球協約で「公共財」とうたわれている。「公共財」の奉仕者たる野球人に自覚と誇りが求められるのはいうまでもない。』
昨今、企業のコンプライアンスが叫ばれている。コンプライアンスは企業のみでなく一般人にも求められていると思う。ましてや手本となるべき政治家たちが「法律に書いていないから」とか「申し合わせ」だからといっても世間は承知しない。大人が変われば子供も変わるといった意味の標語をどこかで見た記憶がある。

今年は選挙の年である。私たちはこの選挙で領袖を選ぶことになる。領袖の「領」は衣の「襟」、「袖」はそでのことで本来「領袖」は「えり」と「そで」を意味する漢語で、衣服の襟と袖は特に目立つ部分であることから、集団を率いる重要なポストを領袖というようになった。あなたの領袖を選ぶ基準はなんですか。

(ごとう  ゆきお・神戸会)


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