論文

ー 特集商法・新会社法 ー
省令案でより明確になった計算書類など
神戸会国岡
(5) 計算書類の個別注記表に記載する項目(計算規則67条、詳細は69条〜81条)
1 継続企業の前提に関する注記(規則69条)
当該株式会社の事業年度末日において、「財務指標の悪化の傾向、重要な債務の不履行等財務破綻の可能性その他株式会社が将来にわたって事業を継続するとの前提(「継続企業の前提」という)」に重要な疑義を抱かせる事象又は状況が存在する場合における、その内容、計算書類への反映の有無などを注記します。
2 重要な会計方針に関する注記とその例示(規則70条)
この注記は、「計算書類の作成のために採用している会計処理の原則及び手続並びに表示方法その他計算書類作成のための基本となる事項(「会計方針」という)」を記載します。この注記項目は、会計参与報告にも記載される項目でもあります。
資産の評価基準及び評価方法 (規則70条一)
(1) 有価証券の評価基準及び評価方法
満期保有目的債券(国債など)償却原価法(定額法)
子会社株式・出資金移動平均法による原価法
(2) 棚卸資産の評価基準及び評価方法
総平均法による原価法 ただし、原材料は最終仕入原価法
(3) 会計方針の変更等をした場合(規則70条
その旨、変更の理由及び変更による影響の内容
表示方法を変更したときは、その内容
固定資産の減価償却の方法(規則70条二)
有形固定資産:建物は定額法、その他は定率法
無形固定資産:定額法
引当金の計上方法(規則70条三)
貸倒引当金: 一般債権は法人税法の規定による法定繰入率により計上、滞留債権など個々の債権の回収可能性を勘案して計上
賞与引当金:支給見込額に基づき計上
退職給付引当金:従業員退職金規定に基づき期末要支給額により計上
(会計指針の特則を適用している場合)
なお、未償却の適用時差異残高は、×××千円(残存償却年数×年)
収益及び費用の計上基準(規則70条四)
収益は実現主義(出荷基準)、費用は発生主義により収益費用対応原則に基づいて計上しています。
その他計算書類作成のための基本となる重要な事項(規則70条五)
事柄が重要なことについて記載することになっています。
3 貸借対照表等に関する注記(規則72条)
担保に供している資産の内容、金額、債務の金額
各資産科目別の減価償却累計額
保証債務、手形遡求債務などの内容と金額
4 損益計算書に関する注記(規則73条)
主要な費目に細分しなかった費用と金額
5 株主資本等変動計算書に関する注記(規則74条、個別注記表で表示)
6 リースにより使用する固定資産に関する注記(規則75条)
7 税効果会計に関する注記(規則76条)
8 持分法損益等に関する注記(規則77条)
9 関連当事者との取引に関する注記(規則78条、個別注記表で表示)
10 一株当たり情報に関する注記(規則79条)純資産額、当期純利益金額
11 重要な後発事象に関する注記(規則80条)
12 その他の注記(規則81条) 計算書類により株式会社の財産・損益を正確に判断するために必要な事項
(6)株式会社の附属明細書の表示(計算規則83条)
次に掲げる3項目のほか、株式会社の計算書類を補足する重要な事項を表示しなければならないとされています。

有価証券の明細(同規則83条一)

有形固定資産及び無形固定資産の明細(同規則83条二)
1

引当金の明細(同規則83条三)

5 会計参与に関して

(1)補助税理士の扱い
税理士法人が会計参与業務を受託する場合には、会計参与としての職務を行うべき者は、税理士法人の社員でなければなりません(会社法333条2項)。税理士法人の使用人たる税理士(補助税理士)は社員でありませんので、その職務執行者にはなれません。これは、税理士法人の社員は、その法人の定款記載事項とされていますが、補助税理士はその記載事項ではありません。つまり、社員は所属法人との競業避止義務が課されているため、当該法人の行為として会計参与の職務を執行していることが明確であるとされています。これに対し、補助税理士は競業避止義務が課されておらず、補助税理士が職務を行うべき者となった場合、法人の業務か、個人の業務か、不明確であるからといわれています(相澤哲参事官・石井祐介民事局付の解説:商事法務No.1745号)。
今回、補助税理士が税理士法人と関係なく単独で会計参与に就任できることがわかりました。施行規則案66条2項において補助税理士が会計参与に就任した場合、会計参与報告等の備置場所は、従事する税理士事務所又は所属税理士法人の事務所の場所から定めなければならないと規定されたからです。

補助税理士は所属事務所又は法人との就業に関する契約において、勤務時間内に会計参与業務に就くこと、その業務報酬は個人に属すること、事務所の一部に会計参与報告等を備置すること、会計参与に就任した当該会社の株主や債権者に対して備置した会計参与報告等を閲覧・謄写の要請に所属事務所等の職員が応接しなければならないことなどの事前了解を得ておかないと就業規則違反として所属事務所又は法人とトラブルが発生するかもしれませんので要注意です。
(2)会計参与報告に記載すべき項目
会計参与報告の目的は、計算書類作成のプロセス等の情報提供機能を充実させること、会計参与の仕事と責任を限定するためという2つです。株主総会の招集通知等に添付されることはなく、会計参与が従事する事務所に備置し、株主及び債権者の閲覧に供するためのみと民事局は解説しています。 規則案では、次の8項目を報告内容としています(施行規則65条)。
職務を行うにつき会計参与設置会社と合意した事項のうち主なもの
会計参与が作成したものの種類
成立の日における貸借対照表
各事業年度に係る計算書類及びその附属明細書
臨時計算書類
連結計算書類
イからニの書類を総称して、「計算関係書類」といいます。
計算関係書類の作成のために採用して いる会計処理の原則及び手続並びに表示方法その他計算関係書類作成のための基本となる事項(計算規則70条と同じ)
資産の評価基準及び評価方法
固定資産の減価償却の方法
引当金の計上基準
収益及び費用の計上基準
その他計算関係書類の作成のための基本となる重要な事項
計算関係書類の作成に用いた資料の種類その他計算関係書類の作成の過程及び方法
四に規定する資料が著しく遅滞して作成されたとき、資料の重要な事項について虚偽の記載がされていたとき、その旨及びその理由
計算関係書類の作成に必要な資料が作成されていなかったとき又は適切に保存されていなかったときは、その旨及びその理由
会計参与が計算関係書類の作成のために行った報告の徴収及び調査の結果
会計参与が計算関係書類の作成に際して取締役と協議した主な事項
(3)会計参与報告の表示

平成×年×月×日 
会計参与報告
○○株式会社会計参与
1 私と○○株式会社は、会計参与の職務につき合意した事項は次のとおりです。
(1) 会社は私が要請した際には、株主・債権者に関する情報を提供すること。
(2) 会社は私が会計参与として計算書類を作成するに際して、すべての資料を私に提出し、提出していない資料はないことを確認しました。
2 私は、○○株式会社の第__期(平成○年○月○日から平成□年□月□日まで)の計算書類とその附属明細書を取締役△△△氏と共同して作成しました。
3 採用している会計処理の原則、手続、表示方法等に関する事項
中小企業の会計に関する指針に基づいて計算書類を作成しています。
以下のイからホは、個別注記表の2と同じ内容です。項目のみ示します。
資産の評価基準及び評価方法
固定資産の減価償却の方法
引当金の計上基準
収益及び費用の計上基準
その他計算関係書類の作成のための基本となる重要な事項
4 計算関係書類の作成に用いた資料の種類その他作成の過程及び方法
(1) 総勘定元帳、各種補助元帳(金銭出納帳、銀行帳、得意先元帳、仕入先元帳)、各種補助簿(売上台帳、固定資産台帳等)、棚卸表、会計伝票綴り○冊など。
(2) 仕訳伝票に基づき電子計算機に入力し、総勘定元帳と残高試算表を作成しました。その残高試算表に基づき計算関係書類を作成しました。
5 計算関係書類の作成のために用いた資料が著しく遅滞して作成され、もしくは虚偽の記 載がなされていた事実
該当する事実はありません。又は、該当すれば、以下に注意して記述します。
著しく遅滞して作成された資料、あるいは虚偽記載された資料があれば、それを記載する。何故それが起こったか理由を書く。会計参与報告が作成されるということは、取締役と意見が一致しており、既に訂正されていることになる。
取締役の過失なのか、故意なのか、取締役の会計に対する姿勢が明らかになる。
6 計算関係書類の作成のために用いた資料が適切に保存されていない事実
該当する事実はありません。
保存されていなかったときは、その旨及びその理由を明らかにする。
7 計算関係書類の作成のために行った報告の徴収及び調査の結果
不良債権、陳腐化資産についての報告を徴収した結果、これらについて適正な処理が行われており、また簿外債務がない旨の回答を得ました。
主な固定資産の視察、営業部門の資料の閲覧等、調査の結果、問題はありませんでした。
会計参与にとって不明確な点があり、報告徴収の結果を明らかにする。
8 私が計算関係書類の作成に際して、取締役△△△氏と協議した事項は、次のとおりです。
4とも関連するが、どういう点が取締役と一致しなかったのか、協議の結果、どう一致したのかを明らかにする。
有価証券の時価評価の方法
研究開発費の会計処理
退職給付引当金の計上方法とその計上金額など

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