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時潮

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税理士は4割増、中小企業は半減、税理士に未来はあるのでしょうか?
理事長 土屋 信行
日税連は、次期税理士法の改正に向けて、税理士会員に対する意見募集を実施しています(11月末日まで)。それに先立って日税連制度部は「次期税理士法改正に関する答申―時代の変化に対応し、未来を創る制度の構築にむけてー」(以下「答申」)を4月17日に行い、ホームページで公表しました。また日税連の機関紙「税理士界」6月15日付8面に制度部長の「会務報告」を掲載しました。

「会務報告」によると2016年時点での中小企業者数は約358 万者であり、ピークの1989年約662万者から300万者以上減少しているとのことです。率にして45.9%の減少ですからほぼ半減です。

同じ「税理士界」の9面に税理士の登録事務事績が掲載されていますが、これによると1989 度末の税理士登録者は55,340人、2016年度末は76,493人ですから、税理士は同じ期間に21,153人増えています。率にして38.2%の増です。税理士はその後も1,535人増え、2018年度末には78,028人になっています(41.0%増)。

税理士1人あたりの中小企業者数を計算してみますと1989年は119.6者であるのに対し、2016年は46.8者と60.9%も減少しています。

また、税理士法人に所属する社員税理士は10,442人(前年度より699人増)、所属税理士は4,887人(同199人増)といずれも増加傾向にあり、両者の合計15,329人は税理士全体の19.64%になります。
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「会務報告」では、ICT(情報通信技術)やAI(人工知能)の進展も「過度に不安視する必要はない。特に、税理士業務の本質的かつ重要な要素は、ICT化が困難な部分にこそ集約される。記帳代行など会計業務の合理化を図り、それにより生じたリソースを税務相談など本来の税理士業務に割くことが肝要」であり、「ICTを活用した合理化の流れに遅れることのないよう自己研さんに努めていただきたい」としています。一方で、「所属税理士が増加する要因として、中小企業の減少によって顧問先の確保が困難になりつつあること等が挙げられる」としています。

税理士は増える、中小企業は減る、そしてICTとAIは進化する、これで減った仕事を、「税務相談など本来の税理士業務」で回復することは可能なのでしょうか?

この状況を反映してか、若い税理士試験受験生が激減しています。国税庁HPによれば平成25年度の受験生(実人数、欠席者は除く、以下同じ)は45,337人だったのが平成30年度には30,850人と5年で14,487人、32.0%も減っています。

年齢別にみると41歳以上の受験生は平成26 年度11,449人→平成30年度11,309人とほぼ同じですが、40歳以下の受験生は大幅減となっています。

弁護士、公認会計士の業界では需要にあわせた合格者の調整が行われています。

弁護士の業界では、日本弁護士連合会は「現実の法曹需要や新人弁護士に対するOJT等の実務的な訓練に対応する必要」から司法試験合格者を1,500人に減ずることを提言しました(「平成30年司法試験最終合格発表に関する会長談話」2018年9月11日)。2008年から2013年まで2,000人を超えていた司法試験合格者は、2016年から1,500人台になっています。
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公認会計士の業界では、平成17年に1,308人だった合格者が18年3,108人、19年4,041人、20年3,625人と急増しました。金融庁が「平成24年以降の合格者数のあり方について」(平成24年1月5日)の中で、「合格者等の活動領域の拡大が依然として進んでないこと」「監査法人による採用が低迷」していることから合格者数を「なお一層抑制的に運用されることが望ましい」としたため、平成24〜30年までの合格者数は1,051人〜1,347人に抑えられています。

「税務相談など本来の税理士業務」をする「ICTを活用した合理化の流れに遅れ」ない税理士だけが生き残ればいいという考えはありますし、税理士全体が共存共栄をめざす考えもあります。共存共栄をめざすならば、需要に合わせた税理士数の調整も必要になってくるでしょう。

「答申」によれば2018年3月31日現在登録税理士77,327人のうち、試験合格者34,914人(45.15%)、試験免除者27,953人(36.15%)、弁護士637人(0.82%)、公認会計士9,631人(12.45%)、特別試験合格者4,176人(5.40%)、その他16人(0.02%)です。以上のうち国税職員であった者は17,705人(22.90%)です。試験免除者は主に税務職員であった者と大学院修了による免除者です。特別試験は昭和61 年に廃止されていますが、計理士と国税職員であった者のための試験です。
「答申」に対する私見を述べさせていただくと、「答申」で掲げる14項目のうち、

8、学識による受験資格要件を見直すこと(筆者注:大学3年次未満でも受験可能とする)
9、税理士は、試験に合格した者であることを原則とすること(筆者注:税経新人会は平成26年の改正の際、「資質認証は公平性を図るためにも試験合格をもって能力担保措置とするべきである」とし「税理士となる資格を有する者は「税理士試験」に合格した者とするという原則に沿った改正を強く求める」意見書を提出しました。)
11、財務大臣の総会決議取消権は見直すこと

の3つは積極的に賛成したいと思います(他は全て反対という訳ではありません)。

また「引き続き検討を要する項目」の中に「税理士の使命の見直しの必要性」があり、「現時点において速やかに改正すべきものではない」としていますが、税理士法第一条に「納税者の権利の擁護」を明記することは急務だと考えます。

この秋、税経新人会でも、税理士としてどう生きていくか?新人会税理士の強みは何か?税理士の未来像や税理士制度のあり方についておおいに研究、議論し、日税連にもどんどん意見を出していきましょう。

(つちや・のぶゆき:関信会)

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