論文

特集  第44回札幌全国研究集会
札幌市の財政はどうなっているか?
「市民がつくった札幌市の財政白書」を読む
  東京会  新国  信

IV  歳出の部

1. 目的別歳出
目的別歳出は、議会費、総務費、民生費、衛生費、労働費、農林業費、商工費、土木費、消防費、教育費、災害復旧費、公債費、諸支出金、予備費に区分されている。「白書」は各費目について2ページを使って分析している。札幌市では、民生費、土木費、公債費、商工費、教育費の5費目で歳出総額の8割を占めている。

札幌市は1998年度までは土木費が最大の支出項目であったが99年度からは民生費が最大となった。公債費は1998年度から第三位に、2003年度からは第二位の支出項目となりこの三費目で2006年度では61.6%となっていて、これに商工費と教育費を加えると81.1%となる。以下そのうちのいくつかをみてみる。
1 議会費
夕張市の財政破綻に際して監査委員や市議会がいかなる監視をしていたのかが改めて問われることとなった。議会費には、議員報酬、議員期末手当、費用弁償、議会費、旅費、政務調査費などの議員に係る経費と議会事務局の人件費などが主なものである。札幌市には2005年度で議員が68名で、議員報酬は月額76万円(このほかに期末手当がある)で指定都市では中位にある。最高の大阪市が102万円、最低の静岡市は66万円である。札幌市の政務調査費は一人当たり月額40万円で、最高の大阪市は60万円、最低は静岡市の25万円となっている。札幌市の議会費は18億円で歳出総額の0.23%である。最近、福島県の矢祭町で議員歳費を日当制にして話題になっているが、もともと少ない報酬で兼業で生計を立てる議員が多い小規模自治体と同レベルで論じられる問題ではないと思うが、報酬についての市民の批判は強まっている。

(表V)

2民生費
民生費は、社会福祉費、老人福祉費、児童福祉費、生活保護費、災害救助費の5つに区分される。自治体の役割が住民福祉の充実強化であることから多くの自治体では最大の支出項目であるが、札幌市も例外ではない。2005年度決算でみると2,558億円で歳出総額の31.9%で2006年度決算では2,557億円と金額は横ばいだが歳出割合は33.1%と増加しており1996年度で1,687億円、20.9%と比べると大幅な増加となっている。白書では、生活保護費と児童福祉費の増加を指摘している。札幌市も高齢化の比率は増加しており当然支出額も増えていると思われるが、国保や老人医療、介護などへの繰出金のみが計上されているのみで民生費の全体はこれらの特別会計も含めて検討されなければ全体の状況が分かりにくいものとなっている。

(表VI)

3土木費
道路、公園、除雪、市営住宅、下水道等々の支出である。最近までは市の支出のトップであったが、一番多かったのは金額では1995年度の2,289億円、歳出比では1987年の32.5%であった。土木費の多くは、その財源を地方債に頼ったため今日の異常な地方債残高となって今後の地方財政運営の重しとなるものである。

白書は、バブル後の1993年度から1999年度の7年間で1,087億円の建設事業が行われたことを施設ごとに金額を示している。それによれば、札幌ドームに307億円、第五清掃工場に212億円、札幌コンサートホールに138億円などとなっている。別項で札幌ドームは、総工費537億円、市財政から管理運営費・利用料補助金として2005年度で1.3億円、2006年度で1.6億円の補助金が運営会社の札幌ドーム(株)に支出されていることを明らかにしている。

札幌市の下水道普及率は2006年度末で99.6%と指定都市でも上位に位置しているが、これまでの建設費用が1兆円であることも示している。

道路除雪費は札幌市に特有の経費であるが、2004年度で降雪量397cmで176億円、翌年が617cmで167億円、2006年は574cmで124億円と土木費の中で10%超の比率となっている。土木費については財源の内訳も示してある。それによれば、2006年度の土木費総額1,208億円のうち国庫支出金が146億円で12.1%、地方債が195億円、16.2%で使用料・手数料(大半が市営住宅家賃)36億円で3%、一般財源等が785億円で65%となっている。

おサイフを知る会の立ち上げのきっかけとなったのが「札幌駅前通地下歩行空間」建設問題で、この計画は「札幌駅から大通りまでの680メートルを地下通路で結ぶことで沿道ビルの再構築と賑わいのある街づくりができる」として200億円(その後220億円に増額)をかけて建設するというものである。「これはいま市民としてどうしても必要なものなのか」市議会に対して建設凍結を求めて陳情したところ「いったん開始した工事は中止できない、やめた場合の損害は誰がどう責任をとるのか」と逆質問を受け、陳情は不採択となった。現在約53億円の支出がすんでおり2012年度の完成をめざして着々と工事は進行している。

また、子どもたちが2〜3キロも離れた小学校までバス通学を余儀なくされている地域での小学校建設の陳情もしたが、「少子化で分離・新設したら現在の学校が成り立たない」として拒否されたとのこと、土地は10年前に確保されているのに。こうした時期に夕張の破綻が報じられ冒頭の動きになったことが示されている。

(表VII)

2. 性質別経費
性質別分類は、自治体の経費をその経済的性質を基準として、人件費、扶助費、公債費、物件費、維持補修費、補助費等、普通建設事業費、公債費等々に分類される。

白書では、それぞれの項目について市民が知りたいと思う観点から分析している。市民がつくる財政白書は、この市民が知りたいということから出発しているので親しみやすく読めるように工夫されている。自治体担当部局が発表する白書は、どちらかというと生活に密着した政策の縮小・廃止や住民負担が増加する理由付けのためだったりして市民にとっては分かりにくいものが多い。

ここでは、紙数の関係もあり、人件費についてのみ白書の分析を示しておきたい。人件費には職員給だけでなく議員・委員の報酬、市長などの特別職の報酬、共済組合負担金、退職金など多岐にわたる。2005年度の人件費は、1,141億円、歳出比で14.2%でピーク時と比べ金額で150億円減、歳出比で1.1%減となっている。

職員給与のラスパイレス指数(国家公務員の給与を100としての給与水準を示す)は、2000年度の103.6%から99.7%と8年連続して低下している。職員数もこの10年間で1900人(一般・特別行政部門で855人)を削減し、人口千人当たり6.2人と指定都市中で3番目に少ないことを示している。また、団塊世代の大量退職で2007年度から退職金の支給額が大幅に増える見通しも示している。この他、扶助費の分析ではその地域の生活保護の受給状況や高齢化状況が反映されるので地域実態の理解には分析を欠かせないし、公債費の動向も今後の財政運営を考えるうえで見逃せない重要な論点であるが、今回は割愛する。

V  地方財政健全化法の施行と自治体財政のこれから

2007年6月、夕張財政の破綻を機に異常なスピードで財政健全化法が成立した。健全化4指標については、2007年度決算から公表を義務づけられた。この9月には全国に自治体の財政状況が従来とは異なる観点から注目を集めることになろう。

三位一体の改革での所得税から住民税への税源移譲は、地方分権の後押しとして実行されたが、税源移譲で財政が豊かになるのは一部の都市部に限られ、地方では補助金や地方交付税の削減で財政運営の展望が見えてこない状況が生まれている。住民が自分の住む自治体の財政に無関心では自身の生活もまもれない状況がやってくるなかで、住民として自らの住むまちの財政分析に取り組んだ「さっぽろの「おサイフ」を知る会」の取り組みに敬意を表したい。千葉県鎌ヶ谷市に住む学生たちが、市財政の分析をしたニュースもあった。

できれば各地域の新人会がこうした住民の活動をバックアップしてくれればと思う。
(にっくに  まこと)

札幌の花  スズラン

札幌の木  ライラック

札幌の鳥  カッコウ

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